Drag Free 宇宙機の打上げが近づいている。Drag Free 宇宙機というのは、重力ポテンシャル以外の原因による加速度を完全にキャンセルして飛行する宇宙機のことである。キャンセルされる加速度の原因としては、大気抗力と太陽輻射圧がある。
歴史的背景
Drag-Free 宇宙機というのは新しいものではなく、既に幾つか飛行していたようだ。
このサイトによると、U. S. Navy's TRANSIT Navigation Satellites が、Drag-Free を採用していたようだ。目的は、予測の難しい大気抗力を完全にキャンセルする事で、衛星の将来の位置を予測し易くする事だった。1970年代から80年代に、6機の衛星が飛行したらしい。その他にも Drag-Free 衛星が飛んでいたかも知れない。
GOCE
近い内に打ち上げられる Drag-Free 衛星の一つは、
GOCE (Gravity Field and Steady-State Ocean Circulation Explorer) である。2007年にロシアの Rockot で打ち上げられる予定である。右図が飛行中の GOCE。地球重力場を高精度に測定するミッションである。RESTEC のホームページにも、
このように紹介されている。約2年間、高度 250km を、イオン・エンジンの推力で大気抗力をキャンセルしながら飛行する予定。日本が関係した衛星で最も低高度を飛行したのは、NASA との共同ミッションの
TRMM (Tropical Rainfall Measuring Mission) であり、高度350km を飛行した。現在は高度400km 余りを飛行している。TRMM の高度保持制御は、通常のヒドラジン・スラスタが使用されており、Drag-Free ではない。GOCE は、TRMM よりも更に 100km 下を飛行する事になる。
GOCE で使用されるイオン・エンジンの性能に関心があり、調べてみた。
この PDF ファイル(System CDR Executive Summary) に記載されている。
1.5mN~20mN までの推力を連続的に選択でき、その分解能は、12μN であった。喉から手が出るほど欲しい性能である。
LISA-Pathfinder (Smart-2)
こちらは 2009年に打上げが予定されている LISA Pathfinder である。アインシュタインが予想した重力波を検出する宇宙機の LISA (Laser Interferometer Space Antenna) の実証ミッションである。LISA は、NASA においては無期限延期の扱いとなっているが、その技術実証を行なう LISA Pathfinder は ESA が予定通り打ち上げようとしている。LISA Pathfinder のミッション軌道は、太陽-地球系のL1点ハロー軌道のようである。LISA Pathfinder は 、
1~100μN を発生する FEEP (Field Emission Electric Propulsion) という電気推進系を使用して、Drag-Free を実現する。この場合は、太陽輻射圧をキャンセルする。
この FEEP の推力ノイズは、0.1μN 以下との事。
ヨーロッパは、1μN ~20mN の広い推力範囲において、高精度の電気推進系を持つ事になる。