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Space Systems/Loral 社の大型静止衛星の将来の打上げ方法

 このブログの『最近の大きな静止衛星の情報』という記事に対して、kodama さんから、以下の論文を紹介して頂いた。ここに、論文の概要を紹介する。
Thomas M. Randolph and David Y. Oh, "Economic Benefit Analysis of Chemical-Electric Orbit Raising Missions," AIAA-2002-1980.
 通常の静止衛星の打上げ方法は、ロケットで GTO と呼ばれる長楕円軌道(遠地点高度がほぼ静止高度、近地点高度は数百km)に投入し、その後、衛星搭載の二液式推進系(比推力320秒程度)を使って、近地点高度を静止高度まで上げるものである。ロケットの射点が赤道近くにない場合は、近地点高度を上げる時に軌道傾斜角も0度に修正する。
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 この論文の方法は、最近、南北保持制御に使われている電気推進系を、静止軌道への投入段階でも使用しようというもの。巧く使えば、より重い静止衛星を投入できるし、その必要がない場合はコストを削減できる。電気推進系を使うと言っても、LEO から使う訳ではない。ロケットで静止高度よりも低い高度の遠地点を持つ長楕円軌道に投入する。そこでロケットから分離され、衛星搭載の二液式推進系で近地点高度を上げて円軌道にする。ここでは簡単のために、赤道から打ち上げるとする。この円軌道の高度は、放射線の影響を避けるためにバンアレン帯よりも高くする。約2万km以上を考えている。ここから、電気推進系の連続噴射により、静止軌道に登る。これらの軌道変換の模式図を右に示す。

 この論文の軌道投入法の特徴を以下に記す。
(1)ロケットから分離後の近地点の上昇は、従来の二液式推進系を使用する。
(2)静止軌道に到着するまでは、ミッション機器が要求する大電力を全て電気推進系に使用できる。
(3)電気推進系は、南北保持制御用のものを使用する。

Space Systems/Loral 社の大型静止衛星の将来の打上げ方法_c0011875_2346489.jpg 電気推進系を使い始める高度を約2万km~3.6万kmの範囲で変える事により、衛星のBOL質量を変える事ができ、静止までの日数も変わる。電気推進系の比推力は、その噴射日数当たりのBOL質量の増加が最大になるような値が望ましい。その最適な比推力は、ホール・スラスタの比推力に近いもの(1000秒前後)となる。
 アリアン5の通常の方法で打ち上げた時に約4100kgのBOL質量の時、80日間のホール・スラスタ噴射を使用すると、約4900kgのBOL質量となり、約800kgも重い衛星を静止軌道に投入できる。ホール・スラスタの噴射日数とBOL質量の増分とはほぼ比例関係にある。

 なお、論文には記されていないが、南北保持制御用のスラスタを流用する方法として、右図に示すようにスラスタを取り付けておけば、西面の2つを同時に噴射すれば、加速制御ができる。東面にも同様に2つのスラスタが付いている。ΔVの効率は約50%であるが、上記のBOL質量増分はそれも考慮した値である。数十日間の電気推進系による連続噴射の期間は、運用コストの低減のためにも衛星の自律運用が必要である。将来の大型の静止衛星の軌道投入は、この方法が良いと述べている。
by utashima | 2005-06-15 00:00 | 宇宙開発トピックス | Trackback | Comments(0)


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