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『明治人の力量(日本の歴史21)』(佐々木隆著)の第3章

第3章 島帝国の孤独

 三国干渉の後、朝鮮では親露派の勢いが強まり、日本の影響下で作られた制度の見直しが始まった。これを憂慮した三浦公使は、本国に無断で明治28年10月8日、大院君を擁立してクーデターを起こし、閔妃らを殺害した。王城事変、閔妃事件などと呼ばれている。日本政府は事件を把握しておらず、小村寿太郎政務局長らの調査で真相が判明、三浦らは本国に召還され、逮捕された。日本政府は無関係であることを伝え、邦人の関与に遺憾の意を表明したが、朝鮮における日本の信望と影響力は大きく後退した。三浦らは翌年1月、証拠不十分で不起訴となった。出先の暴走が糾明・粛正されなかった。同様のパターンが、昭和に入って満州事変などで繰り返された。

 第9議会に政府は明治29年度予算案を提出。歳出総額は1億9598万円であった。これには陸海軍の増強、製鉄所設立、台湾経営費などが含まれ、予算規模は倍増した。新財源には、酒造税増税、営業税・登録税の新設、葉煙草専売化、清国賠償金が充てられた。清国賠償金は、明治31年5月までに総額3億6486万円が払い込まれた。倍増前の予算規模(約1億円)の約3.5倍である。その8割以上が軍事費関係に使われた。

 明治29年2月、高宗の露館播遷事件(ろかんはんせんじけん)が起きた。李氏朝鮮の第26代王・高宗がロシア公使館に移り朝鮮王朝の執政を執ったことを言う。朝鮮の親日的と目された人々が殺害され、親露的な人々が朝鮮を制した。

 第10議会で明治30年度予算が決定され、海軍拡張計画が認められた。英露のどちらか1国とその他の1~2国の連合に対抗できる海軍を目標とし、軍艦20隻、駆逐艦23隻、水雷艇63隻を建造するものだった。日露戦争の連合艦隊の主力はこの計画で整備されたもの。この議会では貨幣法が成立し、明治30年10月から金本位制が施行された。

 米国は明治30年6月16日にハワイを併合した。係争地に親米政権や「独立国」を作り、彼らの要請に応える形で介入し、ついには領土化するのは米国の得意技だった。明治31年2月、スペイン領キューバのハバナに停泊中の米国戦艦「メイン」が爆沈。米国はスペインの謀略と決めつけてスペインを挑発し、キューバを独立国とした。4月には米国-スペイン間で戦いとなり、米国はフィリピン、グアム、プエルトリコを領土化し、キューバを衛星国とした。

 明治30年11月1日、山東省で起きたドイツ人宣教師殺害事件を理由に、ドイツ艦隊が11月4日に膠州湾(山東半島南岸)を占領。この事は、ドイツと対抗関係にあるロシアを刺激した。12月7日にロシアのローゼン公使が西外相に、「ドイツに対抗するため、ロシア艦隊を一時、大連湾・旅順港に停泊させる」と通告してきた。

 列強の清国分割は、日清戦争における清国の惨敗が招いた。日本にとっては不羈独立の階梯だったはずだが、皮肉にも危機を誘発した。

 明治31年1月12日、第三次伊藤内閣が発足。列強は、清国・韓国を蚕食し日本の不羈独立を脅かしていたが、日本の軍事力・経済力では打つ手がなかった。同盟政策をとりたくても、日本を同盟の相手に足る国と見てくれる国がないので、同盟政策の取りようがなかった。かつての文化の師たる中華帝国が列強の侵略の前に為すところなく分割されていく姿は、文学者にも絶望感・無力感をもたらした。「荒城の月」で知られる詩人の土井晩翠は、列強の侵略を異文明・異文化の衝突と認識し、キリスト教文明の独善性・排他性に嫌悪感を示した。

 明治31年3月、ロシアは清国と遼東半島租借条約を結び、旅順・大連を含む遼東半島先端部を25年間の期限で租借し、半島中北部は中立地帯とされた。東清鉄道の支線(後の南満州鉄道)を大連まで敷設する権利がロシアに与えられた。日本はイギリスの介入を期待したが、イギリスは旅順・大連を自由港とする条件でロシアの進出を黙認した。イギリスは長江沿岸への進出に忙しく、ロシアとの摩擦を避けていた。

 フランスは南清地方に利権を拡張、明治30年3月に海南島の不割譲を約束させ、31年4月には広州湾を租借した。不割譲は、第3国に割譲・租借させないことを約束させるものだが、その地域に優越権・発言権を持つ事を確認させる効果があった。

 日本は、租借攻勢から台湾を守るため、明治31年4月22日に対岸の福建省の不割譲を清国に約束させた。

 明治31年6月30日、第一次大隈内閣、いわゆる隈板内閣が成立した。前外務大臣兼農商務大臣の大隈重信が第8代内閣総理大臣に任命され、明治31年11月8日まで続いた。与党となった憲政党のうち、旧進歩党系の大隈を首相に、旧自由党系の板垣退助を内務大臣に迎えて組織したため、大隈の「隈」と板垣の「板」をとって隈板内閣(わいはんないかく)ともいう。日本最初の政党内閣である。
by utashima | 2013-06-01 11:50 | 読書 | Trackback | Comments(0)


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