
1984年頃、H2ロケットで2トン級の静止衛星を打ち上げる計画が進行していた。静止衛星の軌道保持範囲は、一般に狭くなる傾向にあるが、衛星の要求電力の増大により太陽電池パドルは大きくなり、それが輻射圧の影響の増大を招き、直下点経度の日変化を大きくするため、保持範囲の縮小化にマイナスに作用する。そこで、追跡管制システムはそのまま(国内局からのレンジ・レンジレートを使用)と仮定して、軌道保持精度の限界を検討した。東西方向の軌道保持には1液式ヒドラジン・スラスタを使うと仮定した。
東西方向の保持では、軌道の接線方向に速度変化を与えて、軌道長半径
aと離心率ベクトルを制御する。衛星の断面積/質量 比 (S/M)の小さい衛星では、輻射圧の影響が小さいため、aを制御する時に離心率ベクトルの変化に都合の良い時刻を選んで制御する1part 方式を採用できる。S/M が大きくなると、輻射圧の影響が大きくなり、a の制御の他に離心率ベクトルを制御するための余分な制御が必要となる。その方法として、2part 方式と 3part 方式を検討した。右に、これら3方式の、離心率ベクトル平面と経度-ドリフトレート平面における変化を示した。


摂動は、地球重力ポテンシャルと太陽輻射圧を考慮した。保持範囲を解析する場合、色々な要因による誤差を考慮する必要がある。この検討では、以下の誤差を考慮した。
(1)軌道長半径の軌道決定誤差:20m
(2)直下点経度の軌道決定誤差:0.002度
(3)計画ソフトの経度伝播誤差 :0.002度/月
(4)保持制御誤差 :5%
保持する静止衛星としては、経度135度に静止する通信衛星と110度に静止する放送衛星を対象とした。衛星質量はどちらも2000kgとし、衛星の断面積は、74m2と129m2を仮定した。一般に、放送衛星の方が必要な電力が大きいので、太陽電池パドルが大きくなるため、断面積を大きく設定した。

放送衛星の場合の各保持方式での可能な保持精度の結果を右の図に示す。この図から以下の事が言える。
(1)公称保持範囲が±0.1度以上は 1part 方式で良い。
(2)公称保持範囲が±0.02~±0.1度では、2, 3part 方式が必要である。
(3)公称保持範囲が±0.02度以下は困難である。
以上のことを、以下の資料にまとめた。
歌島, "2トン級静止衛星の軌道保持の精度上の限界の検討," TK-M95108, 1984年.
最近の静止衛星の保持範囲については、
『静止衛星の打ち上げから寿命後まで』というサイトに、以下のように書かれています。
運用の実際と静止軌道上の位置精度
・・・静止衛星の軌道維持精度は、緯度・経度方向に対し±0.1゜となっています。・・・
現在では、BS デジタル機・アナログ機に加え、CS110゜と呼ばれる衛星も加わり、現用機だけでも三機体制となっています。この三機体制の実現には、先のエリアをさらに経度方向に三分割し、それぞれ約 0.06゜の以内に各々の軌道を維持することで実現しています。・・・
0.06度の範囲という事は、±0.03度という事なので、1984年の解析で限界と考えていた±0.02度にかなり接近している事が判る。