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『シリーズ現代の天文学10 太陽』(日本評論社)

 標記の本を読んだ。最近、太陽の元気の無さが報道されており、私も気にかかっている。人類は、太陽の事をどこまで理解しているのか、知りたいと思った。仕事の関係もある。現在、超低高度衛星の技術試験機の検討を進めており、私の心配の一つが、太陽フレア、CME(Coronal Mass Ejection)、SEP(Solar Energetic Particles)などの太陽活動がこのような超低高度(高度250km~180km)の衛星に与える悪影響である。

 以下に、この本を読んで、印象に残った事を簡単に記す。

(1)太陽中心部の核融合反応で発生したエネルギーが太陽表面から放出されるまでの時間遅れは、約1000万年である。そのため、比較的最近まで、現時点で太陽内部の核融合が継続しているのか、止まっているのか、分からなかった。

(2)太陽から放出されているニュートリノの観測により、今の時点でも太陽内部で核融合反応が続いている事が確認された。

(3)高速の太陽風(800km/s程度)はコロナホールと呼ばれる場所から吹き出ている。コロナホールは、基本的には太陽の高緯度付近に存在する。コロナホールの初期の研究成果の多くは、米国のスカイラブ衛星の観測から得られている。なお、CMEもスカイラブに搭載されたコロナグラフによって1970年代初頭発見されている。

(4)極小期には、コロナホールは低緯度付近まで広がり、極大期には、高緯度付近に制限される。

(5)黒点の出現緯度は、約11年の1周期の間に、中緯度から赤道に向かって移動する。これをプロットすると蝶を横向きに並べたように見える事から、蝶形図(butterfly diagram)と呼ばれている。なお、太陽活動周期は、極小期から次の極小期までを1周期としている。

(6)太陽の周期活動をモデルによる数値計算で理解する事は、膨大な計算が必要なため、現在でもできていない。

(7)可視光で見る事のできるコロナは、我々に届くまでの物理過程の違いにより、Kコロナ、Fコロナ、Eコロナと分けて呼ばれている。Kコロナは吸収線を持たない連続光、Fコロナはフラウンホーファー吸収線を持つ成分、Eコロナはある狭い波長域だけに局在した輝線成分。光球面から太陽半径の数倍以上離れると、Fコロナが主になって来る。

(8)黒点は、ほぼ東西に並んだ対として現れる。それぞれNとSの磁極を持つ。約11年の1周期の間は、NとSの並ぶ順序は一定であり、次の太陽活動周期になると、その順序が逆転する。この磁極の変化まで考えると、太陽活動の周期は、11年ではなく22年となる。

(9)太陽における突発的磁気エネルギー解放現象の内、電磁放射でエネルギーを解放する現象をフレアと呼び、力学的エネルギーで解放される現象をCMEと呼ぶ、という理解に達している。大抵のCMEはフレアに伴って発生する。


 なお、この本では、触れられていなかったが、2006年10月に打ち上げられた米国の STEREO 探査機は、現在、太陽-地球系の L4, L5 点付近をゆっくり移動しつつ、太陽のステレオ観測を続けている。このように、複数の地点から太陽と地球間の空間を観測する事で、CMEの進路予測も可能となり、衛星への悪影響を事前に把握できるようになると期待している。
by utashima | 2009-04-24 12:01 | 読書 | Trackback | Comments(0)


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