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L5ミッションの自律光学航法  1999年

 1998年10月に打ち上げられたNASAの技術実証宇宙機 DS-1 は、太陽系の中を自在に運動できる宇宙機への第一歩であろう。自律光学航法により自分の位置を精度良く知り、それに基づいてイオンエンジンを噴射してターゲットに向かう事ができる。DS-1 の自律光学航法は、軌道の判っている小惑星を、次々と恒星を背景に観測して行く事により、自分の軌道を決めるものである。2001年9月には Borrelly 彗星のフライバイ (距離2200km) に成功している。

 DS-1 には少し思い出がある。1996年の夏、米国西海岸のサンディエゴで開かれた AIAA/AAS Astrodynamics Specialist Conference に参加した時、帰りに、ロサンゼルス郊外のパサデナにあるジェット推進研究所に寄り、NASA/JPL が進めている超小型高機能宇宙機開発計画 New Millennium Program の担当者たちと打合せを持った。DS-1 はNew Millennium Program の中の1つのミッションである。Navigation section のLincoln Wood 氏の部署では、DS-1 のための Autonomous Navigation の研究していた。そこで、HPのワークステーションで動くシミュレーション・ソフトのデモを見せてもらった。ロケットによる投入誤差を持った軌道から出発し、自律光学航法で自分の位置情報を修正しながら、4回の制御の後、目標小惑星を誤差2, 3kmでフライバイしていた。Navigation sectionは、10年前に1年間滞在させて貰った所であり、とても懐かしかった。

 1999年頃、太陽を観測するL5ミッション宇宙機の自律光学航法の検討を行なった。L5ミッションの位置決定精度要求は約1万kmであり、通常の惑星間ミッションに比べて要求が桁違いに緩い。最初に自律光学航法を適用してみるのに適していると思ったからである。

 航法のための光学観測の対象として地球を、カメラとしては、DS-1 が搭載していたスタートラッカーを想定した。L5ミッションへの適用においては、低コストが最も重要と考えたからである。スタートラッカーは、宇宙機の姿勢を変更する事無く常に地球方向を恒星を背景に観測できるように、宇宙機に固定する。この方式で、どの程度の軌道推定精度が得られるかを検討してみた。下の図は、位置誤差1000km、速度誤差0.17m/sまで事前に地上局からの電波観測で絞り込んだ後、常に地球方向だけを観測する事で期待される位置・速度の誤差の変化である。約半年後に位置誤差が6000km位まで増大するが、以降は2000km以下の誤差に留まる事が判る。要求の1万kmを十分達成できそうである。
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 一つ、気になる点があった。地球が明る過ぎて、スタートラッカーが暗い恒星と明るい地球を同じ視野に捕らえる事は困難ではないか、という点である。

次の記事に続く・・
by utashima | 2005-04-30 19:48 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback | Comments(0)

軌道寿命を簡単に評価できるチャート

 記事『まだ軌道上にあったETS-Ⅳ』で、ETS-Ⅳの軌道寿命はおよそ30年かなと書いた。このような長楕円軌道の寿命を比較的簡単に事前評価できるチャートがある。NASA Johnson Space Centerのホームページ"NASA Orbital Debris Program Office"の中の"Orbital Debris Mitigation"に、"NASA Safety Standard 1740.14"というPDFファイルが公開されている。これは、NASAの宇宙機ミッションを考える際にデブリを増やさないという観点から、事前にどのような事をチェックしておかねばならないかを記したドキュメントであり、1995年に制定されている。

 このドキュメントの中のFigure 6-3を使えば、高離心率の軌道の寿命が25年よりも長いか短いかを簡単に評価できる。下の図がそれである。
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横軸が初期の遠地点高度、縦軸が初期の近地点高度、図中の複数の数値は「断面積/質量(m2/kg)」である。ETS-Ⅳの断面積/質量は約0.01なので、寿命が25年となる初期の近地点高度は、約210kmと判る。図中の赤丸である。ETS-Ⅳの初期近地点高度は約225kmなので、寿命は25年よりは長い事が予測できる。なお、『月太陽潮汐力による長楕円軌道の近地点高度変動 1979年』で紹介したように、GTOの近地点高度は月太陽などの影響で数十kmの振幅で変動があるため、事前に平均的な近地点高度を計算しておいて、このチャートを利用すれば、軌道寿命の精度が向上すると考えられる。
by utashima | 2005-04-29 15:11 | 宇宙開発トピックス | Trackback | Comments(0)

まだ軌道上にあったETS-Ⅳ

 4月26日の記事『デブリ同士の衝突』の中で、
GTOにペイロードを投入した後のロケットの上段は、近地点高度が低いため、25年以下で落下する可能性が大きい。
と書いた。その時、NASDAが1981年2月に打ち上げたETS-Ⅳを思い出していた。ETS-ⅣはN-ⅡロケットのGTOへの投入能力を確認するための技術試験衛星であり、アポジモータを搭載していなかった。従って、GTO上に放置された衛星である。ETS-Ⅳは近地点高度225kmのGTOに投入され、放射線帯を毎周回通過する事による太陽電池の劣化のために発生電力が著しく低下し、1984年12月24日に運用を停止した。しかし、ETS-Ⅳはその後も軌道上を飛行していた。

c0011875_0521889.gif 果たして、打上げから24年経った今、ETS-Ⅳは既に落下しているのであろうか。軌道上の殆ど全ての宇宙機の軌道を知る事のできる『Welcome to the new-look Heavens-Above!』にアクセスして探してみた。最初は簡単な登録が必要である。打上げ年が1981年であるという条件だけで絞り込み、"kiku-3"という衛星名を見つけた。"kiku-4"ではありません。まだ軌道上を飛行していた!遠地点高度は15,600 kmまで落ちていた。右の図は、現在の軌道である。計算はしていないが、今後10年以内に落下すると思われ、ETS-Ⅳの軌道寿命は約30年となろう。ロケットの上段は、スピン安定型のETS-Ⅳよりは断面積/質量の比が大きいと考えられるので、空力加速度をより大きく受け、軌道寿命はETS-Ⅳよりは短いと考えられる。従って、記事『デブリ同士の衝突』の中では、25年以内に落下する可能性が大きいと記した。

[補足 (2007年2月2日)]
 H2A の第2段の燃料抜きの断面積/質量は、約0.013程度でした。これはETS-Ⅳなどのスピン安定衛星と同じ程度です。よって、ロケットの上段はGTOから25年以内に落下する可能性が大きいという上の記述は訂正します。
by utashima | 2005-04-29 00:52 | 宇宙開発トピックス | Trackback | Comments(7)

デブリ同士の衝突

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 NASA Johnson Space Centerが年4回発行している『Orbital Debris Quarterly News』の今年のIssue 2によると、今年の1月に、31年前に打ち上げられた米国のロケットの上段部と、2000年3月に爆発した中国のCZ-4ロケットの破片とが、南極上空の高度885kmで衝突した事が判ったという。共に、カタログ化されていたデブリである。衝突の際、新たなデブリ3個の放出が確認されている。高度900km付近は、最もデブリが多いところである。そこのデブリ密度が更に上昇した事になる。

 図(Orbital Debris Quarterly Newsより引用)を見ると、衝突した2物体の軌道は、どちらも円軌道に近い様に見える。米国のロケットの上段部は31年間も軌道上に存在していた。このロケットはペイロードをどんな軌道に投入したのか知らないが、高度1000km以下の円軌道ではないであろう。その場合は既に落下していると考えられる。恐らく、遠地点高度が数千km以上の軌道に投入したのであろう。 このロケットのペイロードは、高度が900kmに近い極軌道のDMSP(軍事気象衛星)であった。この程度の高度になると、31年経っても余り高度は低下しないようだ。(以下のコメントを参照。)

 いずれにせよ、高い軌道にペイロードを投入したロケットを放置しておくと、今回のような衝突を引き起こす恐れがある。GTOにペイロードを投入した後のロケットの上段は、近地点高度が低いため、25年以下で落下する可能性が大きい。25年以上不要なものを軌道上に残さないという国際的なガイドラインを満たしている可能性が大きい。一方、今回のような中高度の極軌道衛星を打ち上げる時のロケットの後処理はどうすべきであろうか。

[2007年1月28日の補足]
 H2A の第2段の dry 状態での質量/断面積の比は、約0.01余りであり、近地点高度が200数十km よりも高いと、25年以上落下しない事が判った。なお、ここでの断面積は、第2段の全表面積の 1/4 を使用する。その理由は、第2段は無制御状態で回転運動すると考えられ、その場合の平均断面積は全表面積の 1/4 になるためである。
by utashima | 2005-04-26 21:14 | 宇宙開発トピックス | Trackback(1) | Comments(9)

言語能力の遺伝子

 広田正夫氏から、『言語の遺伝子と古代のうた』という鹿野 司氏のブログの記事を教えて頂いた。今日の午後に投稿された記事だ。簡単に紹介すると、2001年に言語遺伝子が突き止められており、人類がそれを獲得したのは約10万年前という。と言う事は、約20万年前から約3万年前までヨーロッパから中東にかけて生存していたネアンデルタール人は、この遺伝子を持っていなかった事が証明された事になる。今後も遺伝子解析で色々な事が明らかになって来るだろう。
by utashima | 2005-04-25 19:59 | 最近考えている事 | Trackback | Comments(0)

『気候変動の文明史』(安田喜憲著)

 今まで、ネアンデルタール人に関心を持って本を読んで来た。彼らは3万年前頃に絶滅した。その後、厳しい環境を生き延びた現生人類(我々)が地球全体に広がった。

 今読んでいる『気候変動の文明史』は、約1万5000年前から始まる地球温暖化を調べる事で、21世紀の温暖化への警鐘を鳴らしている本である。1万5000年前は、11万5000年前に始まった最後の氷河期が終わり、現在の間氷期へと急速に温暖化した時期である。
 この1万5000年前の急速な地球温暖化により、マンモスは適応できずに絶滅した。人類の乱獲もその要因と言われている。この温暖化は、全世界同時に生じたのではない事が、湖底の年縞などの調査から判ってきたという。モンスーンアジアは北西ヨーロッパよりも500年も早く温暖化が始まったらしい。ちょうど2005年4月19日の朝日新聞に以下のような記事があった。
 最終氷河期の約2万3000年前から1万7000年前にかけてメタンが大規模に放出された形跡を、海洋研究開発機構などのグループが十勝沖で見つけ、18日発表した。将来のエネルギー源として注目されるメタンハイドレート層の崩壊によるメタン放出が、地球温暖化につながった可能性を示す発見だ。
 この時期は最終氷河期の最も寒い時期から氷が解け出す時期にあたり、メタン放出が急激な温暖化のきっかけになった可能性があるという。
 メタンの噴出が、氷河期が終わった原因だろうか。過去に氷河期と間氷期は何度か繰り返しているが、氷河期が終わる原因は、いずれも同じなのだろうか。上記の新聞記事の内容からして、それ以前の事は殆ど判っていないのであろう。今回のメタンハイドレート層の崩壊にしても、何がこれをもたらしたのか。地球内部のマントルなどの運動によるのであろうか。

 この本はタイトルが示すように、気候変動が文明及び政権に大きな影響を与えた事が述べられている。特に関心を持ったのは、崇神(すじん)天皇が大陸からの渡来集団の代表であった可能性が高いと述べられている事。崇神天皇は第10代天皇とされているが、実際には初代天皇だったとの説もあるらしい。この頃、気候が寒冷化し、大陸では北部からの侵略のために南部の貴族階級の人たちが大挙して日本に流れ込んで来た可能性を述べている。この頃の難民は高度の文明を日本にもたらしたが、21世紀に発生すると予想される日本への環境難民は低所得層のため、日本に大きな影響を与えるだろうと述べられている。

 私は九州大学に4年間お世話になったが、その所在地の福岡市の中心部は天神地区と呼ばれている。この本を読むと、「天神」は「外来民族」を意味する言葉のようだ。大陸から流れてきた人々が作った町なのだろうか。
by utashima | 2005-04-24 15:58 | 読書 | Trackback | Comments(0)

ウイルスバスタの不具合(2005-04-23)

 昨日(2005年4月23日)、ウイルスバスタのパターンファイル594が原因の不具合が色々なシステムで発生した。594は7時30分頃にネットに発信され、9時過ぎには止められた様なので、その約2時間の間に電源の入っていたPC(OSがWindows XP sp2のもの等、Windows MEは無関係)が影響を受ける可能性があった事になる。幸い、私の自宅では古いWindows MEを、「リソースがすぐに減って頻繁に再起動が必要だ」と文句を言いながら使っていたおかげ(?)で問題なく動いている。

 しかし、我が家のPCでは別の変な現象が続いている。以下のエラーメッセージの窓が1日に1回は開く。
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トレンドマイクロ社のHPにもこの現象は載っていて調査中となっている。メッセージに従って、再起動して最新版に更新しても改善しない。よって、放置しているが、ウイルスパターンは今最新の598にちゃんと成っている。

 ウイルスバスタ2003の時は、Netscape社のブラウザ/メールを使っていて、相性が悪いのか、半年位PCが不安定になり苦労した思いがある。明日、会社のPCが無事に立ち上がるか、少し不安を持っている。電源を入れる前に、PC管理部門に電話をして確認しようと考えている。
by utashima | 2005-04-24 11:53 | パソコン | Trackback | Comments(0)

黄道面内1AU軌道のドリフト  1999年

c0011875_1913288.jpg 1999年に、黄道面内の日心距離が約1AUの軌道のドリフトについて検討した。

 この頃、L5ミッションという太陽-地球系のL5点で太陽を観測するミッションの検討をしていた。L5点は、図のθが-60度の点である。θが+60度の点はL4点と呼ばれている。どちらも安定な点であり、放置しても、太陽と地球との関係は変化しない。初期条件によっては、L4又はL5点周りの周期運動をするが。このL5ミッションの検討をしている時、θ=-60度でなく、θ=-90度で太陽を観測する事はできないか、とミッション担当の研究者に尋ねられた。

 θ=±60度以外の点では、地球に対して相対的に静止せず、ドリフトして行く事は判っているが、どの程度の速さでドリフトするのか、宇宙機のミッション期間の5年とか10年を考えた時に、その間のドリフト量がどの程度になるのか、等は把握していなかった。

 そこで、θ=-90度に固定せず、全てのθに対して、初期に相対静止の状態にあった後の宇宙機のドリフトについて検討する事にした。円制限三体問題のモデルで数値シミュレーションによって求めた結果を下の図2.2に示す。縦軸は、10年間のドリフト量である。
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 L4, L5点から離れた点に相対静止した宇宙機は、L4点又はL5点に接近する方向にドリフトする事が判る。初期位置が地球に近いほど、ドリフト速度は大きい。初期の|θ|が60度を越えると、ドリフト量は小さい。|θ|=±110度辺りでドリフト量は極値を取るが、10年間で±190万km程度である。太陽中心角では0.7度余りに過ぎない。従って、ミッションによっては、θ=±60度よりも地球から離れた任意の点も候補になり得ると言える。勿論、地球との通信は困難になるが。

 次に、上記のドリフトを精度良く与える解析的な式を得る事にした。円制限三体問題の運動方程式を近似的に解いて、以下の式を得た。θに対して、10年間のドリフト量を与える式である。なお、ドリフト量は時間の2次関数で近似できる。この式は、|θ|>20度の範囲では良い精度である。
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 これらの事を以下の資料にまとめている。
歌島, "1AU軌道のドリフトと投入コスト," GAA-99005, 1999年5月.

by utashima | 2005-04-23 19:15 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback | Comments(0)

ウゴツールを使ってみた

c0011875_19365875.gif 九十九さんのブログに紹介されていた「ウゴツール」に興味を覚えて使ってみた。描いたものが揺れるように表示される。右に試した絵を掲げる。「揺れ」を巧く利用するにはと考えて、最近多い地震を思い付いた。筑波でも1週間ほど前に震度4の地震があった。ウゴツールの「揺れ」機能は、他にどんな絵に有効に使えるか。絵の中の指定した部分だけが揺れるように指定できれば面白さが増すかも知れない。

c0011875_21535093.gif ロケットのメインエンジンに点火直後は全体が振動している。但し、私はまだ近くで打上げを見た事はないが。その場合の絵を描いてみた。
by utashima | 2005-04-17 19:40 | パソコン | Trackback | Comments(1)

Interferometric CartWheelと母衛星の衝突回避の検討  2001年

 2001年7月、標記の検討を行なった。Interferometric CartWheel(以下、ICWと略す)というのは、フランスの宇宙機関(CNES)の研究者であるMassonnet氏が考案した衛星群による干渉SARデータの新しい取得法の名前であり、既に特許が取られている。以下の論文の2番目の参考文献として、特許の資料が掲げられている。
D. Massonnet, "Capabilities and Limitations of the Interferometric CartWheel," November 1999.
 今までもSAR(合成開口レーダー)を搭載した衛星を使い、干渉データを取得して地表の高度差などを高精度に求めることは行なわれて来た。なお、世界初のSAR搭載衛星は、1978年NASAによって打ち上げられたSEASATであり、日本(NASDA)も1992年にSAR搭載のJERS-1を打ち上げている。ヨーロッパ、カナダも同様な衛星を打ち上げている。SARについては、JAXAホームページのここに簡単な解説があります。

 従来の干渉SARデータの取得法は、数日~数十日後にほぼ同じ地点上空を衛星が通過した時に取得したSARデータを干渉させる方法であった。この2回の観測時の衛星間のベース長を最適に制御する事は困難であり、運任せの面があった。また、観測時が数十日も離れると地表の様子も一般には異なり、干渉させる事が困難になる場合もある。

 NASAはスペースシャトルに、ベース長が約60mの干渉SAR装置を搭載したSRTM (Shuttle Radar Topography Missin)ミッションを2000年に実施し、緯度-55
度~+60度の範囲の全球の地形データを取得している。これは毛利さんが飛行したSTS-99のミッションの一つであった。この方法では、ある地点を1回通過するだけで干渉SARデータが得られる利点があるが、ベース長60mは十分な長さではなく、得られる高度差の精度が限定される。

 ICWは上記の2つの問題点(時間差とベース長)を低コストで解消できる方法である。ここに、Massonnet氏が作成したICWの原理の説明がある。c0011875_11362887.jpg
右の図がICWの基本飛行形態であり、SARの送受信機を搭載した母衛星の前又は後ろを飛行する数機の小型衛星群がICW宇宙機である。この図は、TerraSAR-Lを母衛星とした場合のCNESとDLR(ドイツの宇宙機関)の検討をまとめた2003年の論文から取ったものである。ICWの各宇宙機は小さい離心率を持ち、近地点方向は360度を等分割するように設定されている。平均的には、母衛星のすぐ前か後ろを飛行する。

 ICWは1998年頃発表され、最初に書いたように特許が取られている。ESAの地球観測衛星ENVISATとの編隊飛行の検討が行なわれたが、採用されなかった模様である。その後、1999年の暮れに、CNES-NASDAのアクションプランの合意がなされ、NASDAが打ち上げる予定のALOSとの編隊飛行の検討が行なわれる事になった。私は、ICWがALOSと共に編隊飛行する場合、ALOSの前方を飛行するのと後方を飛行するのとでは、どちらがより衝突の可能性が小さいかを検討した。前提は、ALOSに何ら設計変更を加えない事であった。主に2つの観点から考察した。

(1)弾道係数の違いによる高度低下率の差
 ICWはSARの送信機は搭載せず受信機のみ搭載する低コストの小型衛星である。一般に衛星が小型になれば、質量/断面積の比は小さくなり、大気抵抗の影響をより大きく受けるようになる。母衛星は1、2週間に1回程度の頻度で高度保持制御を行なうが、ICWも同様の制御を行なう必要がある。もし、ICWに何らかの不具合が発生して高度保持制御を正常に実施できない事態になると、ICWは母衛星よりも平均速度が大きくなり、母衛星の後ろを飛行している場合は接近する事になる。よって、母衛星の前方を飛行する方が安全である。

(2)2,3年に1回の頻度で実施される面外制御の影響
 地球観測衛星は、一般に太陽同期軌道を飛行し、その軌道面と太陽方向とのなす角はほぼ一定である。しかし、摂動により、少しずつ軌道面がずれるために、観測される時刻がずれて来る。このずれを解消するために、2,3年に1回の頻度で軌道面の制御を行なう。一般に地球観測衛星は太陽同期性だけでなく、準回帰性(指定した日数後に同じ地点上空を通過する事)も要求される。太陽同期性を維持するために軌道面を調節すると、準回帰性にも影響を与え、軌道高度を僅かに上げる事も必要になる。高度を上げると、それをしない場合より母衛星の位置は後退する。ICWが母衛星の後方を飛行していると、衝突の危険性は前方飛行より大きくなる。但し、ICWの最低限必要なミッション期間は約1年であり、この軌道面制御の時期を避ける事は可能である。

 以上の検討から、私は、母衛星の前方にICWを飛ばすのがより安全であると報告した。この検討結果は、以下の資料にまとめた。
歌島, "CARTWHEELの衝突回避の検討," GLA-01021, 2001年.
ALOSとICWとの編隊飛行の話は実現しない事になった模様。ALOSに衝突を避けるための何らかの設計がなされていない以上、危険であると私も考えた。

 この記事を書くに際して文献を調べてみると、TerraSAR-Lとの編隊飛行の検討が行なわれている事が判った。上のICWの図が掲載されている2003年の論文である。この論文を読むと、母衛星とICWとの衛星間の通信リンクも検討されている事が判る。ICWで受信した干渉SARデータは母衛星経由で地上局に下ろされる。当然、衝突回避のための何らかの機能が考慮される事であろう。ICWの良い点は、ベース長を自由に選べるだけでなく、軌道を工夫する事で、1パス観測で複数のベース長のデータを取得する事ができる点であろう。上記の2003年の論文に、この事も記されている。今後のSAR衛星の一つの方向を示すものであろう。
by utashima | 2005-04-15 21:05 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback | Comments(12)