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裏話の載っている論文

 今、以下の文献を読んでいる。2002年にスペインで開催されたラグランジュ点ミッション関係のConferenceで発表されたものの後刷り原稿である。
David W. Dunham and Robert W. Farquhar, "Libration Point Missions, 1978 – 2002," The 7th International Conference on Libration Point Orbits and Applications, Parador d'Aiguablava, Girona, Spain, 10 - 14 June, 2002.
Farquhar氏は、ハロー軌道を考案し、世界初のラグランジュ点ミッションであるISEE-3を実現させた人である。この文献を読んでとても興味深かったので、簡単にご紹介したい。

・有人月着陸を行なったアポロ計画の17号機は、初期の計画では、月の裏側に着陸させる事も検討されていた。地球との通信のために、地球-月系L2点周りのハロー軌道にデータ中継衛星を置いて。予算削減のために17号が最後の飛行となり、着陸地点も表側になった。

・地球の磁気圏尾部を観測するため、遠地点が常に反太陽方向に来るようにする軌道設計(Double Lunar Swingby)は、1979年にFarquhar氏が発見した。この文献には、Roger Broucke氏がそれ以前に見つけていたと主張している事を記している。Farquhar氏は、彼はそれを出版していないし、その有用性も理解していなかったと述べている。

・共著者のDunham氏は、ISEE-3を太陽-地球系L1点のハロー軌道から、Double Lunar Swingbyを利用してGiacobini-Zinner彗星に向かわせる計算をしている時、途中の近地点通過時に微小のΔVを付加するだけで、太陽-地球系L2点のリサジュ軌道に投入できる事に気づいた。これは、月swingbyを利用して、L2点リサジュ軌道に投入する計画を初めて作った事になる。しかし、この軌道では、Giacobini-Zinner彗星に向かう事はできなかったので、発表はしていなかった。その数年後、Relict-2とWMAPの計画で、この軌道計画が採用された。ロシアのRelict-2はソ連崩壊の影響を受けて実現しなかったが、WMAPは世界初のL2点ミッションとなり、宇宙の年齢が約137億年と決定される上で大きな貢献をした。Dunham氏は悔しい思いをされた事だろう。

 以上の様に、この文献には、普通の論文では見かけない裏話的な内容の記述が所々にあって、読んでいて楽しい。
by utashima | 2005-03-28 19:13 | 宇宙開発トピックス | Trackback | Comments(0)

電気推進による月capture軌道の検討  1993年

 1993年の初め頃、標記の検討を行なった。地球周回低軌道を出発し、推力の小さい電気推進系のみを使って、月の略円極軌道に投入する計画である。この検討は、以下の文献をベースとしており、実際にやってみるとどんな問題に出くわすかを調べたいと思った。
E.A.Belbruno, "Lunar Capture Orbits, A Method of Constructing Earth Moon Trajectories and the Lunar GAS Mission," AIAA-87-1054, 1987.
この文献によると、地球から約20万kmのある点(以下P点と呼ぶ)に所定の速度で投入すれば、その後は慣性飛行で月重力に捕捉させる事ができ、その後は電気推進系の連続逆噴射で月周回軌道を実現できる。この連続逆噴射を開始する点をQ点と呼ぶ。

 P点への投入精度はどの程度が要求されるのかに関心があったが、先ずはその前に必要な基準軌道を作ってみる事にした。Q点に達してからの電気推進系の逆噴射は、単に連続的に逆噴射をしただけでは円軌道を維持したまま高度を下げる事が困難な場合がある。その時に太陽がどの方向にあるかによって太陽潮汐力の影響が異なるためである。Q点からの1周間において、推力の方向を変えたり(加速するか減速するか)、推力オフ期間を設けたりすると、その後は連続逆噴射で問題ない事が判った。P点からQ点までの慣性飛行の軌跡を描いてみると、地球-月系のL1点を北から南に通過している。図5-1,5-2をご覧下さい。
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この検討は、別の仕事が入ったために、ここで止め、ここまでを以下の資料にまとめた。
歌島, "月キャプチャー・ノミナル軌道の設定," HE-93013, 1993年3月.

 ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のSMART-1宇宙機は、2003年9月にGTO(静止軌道への遷移軌道)に打ち上げられ、そこから電気推進系(ホール・スラスタ、推力70mN)を使って軌道を大きくし、2004年11月11日に月のL1点を通過した。そして、2005年3月1日に月観測軌道(遠月点高度2900 km, 近月点高度470 km)に投入された。GTOを出発してから約17ヶ月掛かっている。
by utashima | 2005-03-26 16:10 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback | Comments(0)

外国にも花粉症?

 私が花粉症になったのは、30代半ばだと思います。でも軽い方だと思います。今年は花粉が多いと言われていましたが、何も予防処置をせず過ごして来ました。でも、3月14日の週に入った頃から症状が出始めました。目の痒みと鼻水。3月18日(金)に我慢できず、近所の眼科に行き、点眼薬、点鼻薬、内服薬の3点セットを貰いました。おかげで、症状は殆どなくなりました。

 外国にも当然、花粉症があるだろうと思いますが、聞いた事がありません。そこで、インターネットで調べてみました。
スギ花粉症の発見は1963年。栃木県日光でのこと。発見者は当時東京医科歯科大学に勤務する斉藤洋三博士。日光での診断中、春先に鼻や眼の症状を訴える人が多いのに気付き、アレルギー検査を開始。スギ花粉に陽性となったことから、「スギ花粉症」と命名した。アメリカではブタクサ花粉症が1872年に発見され、その報告がなされた。イギリスで花粉症はもともと枯草熱と呼ばれ、イネ科植物の花粉によるとの報告が1873年に行われている。
と、ヨッシー.Mさんのホームページに書かれていました。やはり、環境破壊の先進国では明治時代の初めに確認されていました。アメリカではブタクサの花粉症が多いそうですが、
テキサス州都(オースチン)ですが、ブッシュの地盤でもありますが、杉花粉はこの時期ものすごいものがあります。杉と言うか、実際はトネリコの木だと思うのですが、丘陵地帯のあちこちにこの木があるため、花粉はものすごいです。僕は留学時にこの花粉症になりました。薬はよいものがありますがね。
と、「新 花粉症なんでも掲示板」に掲載されています。一般には、その地方の花粉に反応するようになるまでに、ある程度の期間がかかるので、外国に行って暫くは花粉症は消える事が多いようです。
by utashima | 2005-03-21 20:35 | 最近考えている事 | Trackback | Comments(0)

フリーフライヤーの軌道解析  1986年

 1986年頃、NASDAにおいても技術試験フリーフライヤー(ETFF)の検討が行なわれていた。H2ロケットで低軌道に打ち上げ、自力で高度500km辺りまで上昇した後、6ヶ月間の慣性飛行中に色々な実験を行なう。その後、スペース・シャトルに回収して貰うミッションである。このようなミッションの最初のものが、1992年に打ち上げられたヨーロッパのEURECAである。日本においては、SFUという同種の宇宙機が1995年にH2ロケットで打ち上げられ、1996年1月、スペースシャトルに搭乗した日本人宇宙飛行士、若田光一氏の操るマニピュレータによって回収された。SFUミッションが宇宙開発委員会で承認されたのが1986年なので、ETFFとSFUはほぼ同時期に検討されていた事になる。ETFFは実現しなかった。

 私は、ETFFの軌道解析を行なった。ETFFが打ち上げられる時には、回収してくれるスペース・シャトルの打上げ日時は決められている事になっていた。ETFFは6ヶ月間の慣性飛行の後、3ヶ月間の昇交点赤経の調整期間を経てシャトルに回収される。回収の3日前には、ETFFの昇交点赤経は、シャトル軌道の昇交点赤経と1度以内で一致している必要があった。そして、この3日間の間に、シャトルとの位相調整をしながらシャトルの高度まで降りて来る。

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 6ヶ月間の慣性飛行の間には、大気抵抗により高度が下がるが、変化するのは高度だけでなく、昇交点赤経の変化も大気抵抗の影響を受ける。私が検討したのは、6ヶ月間の昇交点赤経の変化がどの程度になるかという事と、最後の3日間のランデブ制御にどの程度のΔVを要するかという事であった。大気抵抗の解析には大気密度の情報が必要である。大気密度は、太陽活動により、桁違いの変動をする。このような問題を簡便に扱う時、私はD.G.King-Hele氏の論文に載っていた大気密度グラフをしばしば利用する。ここに掲げた図がそれである。この図を使った私の方法は、非常に簡単であるが、NASAの結果と良く一致している。この検討は、以下の資料にまとめた。
歌島, "技術試験フリーフライヤーの軌道解析(1) (第2版)," TK-M15104, 1986年.
 
by utashima | 2005-03-20 18:49 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback | Comments(0)

『ウェブログのアイデア!』を10名さまにプレゼントに応募

『ウェブログのアイデア!』を10名さまにプレゼントという企画があったので、運試しという事で応募させて頂いた。
by utashima | 2005-03-19 21:03 | イベント | Trackback | Comments(0)

マスドライバによる月資源のL4点への輸送問題  1993年

 1993年頃、未来工学研究所に作られたある研究会で、月資源を地球-月系のL4点に輸送して利用する事が検討されていた。どんな事に利用する検討だったかは忘れてしまったが。月からL4点への輸送には、マスドライバを使用する事を考えていた。NASDAの上の人を経由して、この輸送問題の検討依頼が来た。地球-月系のL4点というと、1969年にジェラルド・オニール博士らがスペース・コロニーの設置場所として提唱した場所である。面白そうなので、検討させて頂く事になった。

 初めの解析では、月赤道から水平方向にマスドライバで打ち出すとした。解析的検討の後、地球と太陽の重力も考慮した数値積分も行なった。マスドライバの打ち出し速度は2400m/s弱が要求され、L4点到着時には100m/s前後の減速が必要になる。ここまでの結果を以下の資料にまとめた。
歌島, "マスドライバによる月資源のL4点への輸送の検討," HE-93021, 1993年3月.

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 次に、L4点到着時の速度(回転系に対する)が最小となる輸送経路を見つけるため、L4点からの逆行積分を使用して検討した。その結果、月の裏側から水平方向に打ち出すと、L4到着時の速度が最小となる事が判った。約77m/sである。しかし、月の裏側は地球との通信に問題がある。別途、月裏側との通信を可能にする通信衛星システムを構築すれば問題は小さくなろう。月表側の中心付近から打ち出すと、L4到着速度は80.5m/sであるが、月表面から真上方向に打ち出す必要があり、マスドライバでは無理。地球から見て月の左側付近から打ち出せば、マスドライバの打ち出し上下角は比較的小さくできるが、L4到着時の速度は120m/s付近まで大きくなる。

 L4到着時の速度が120m/sの場合に対して、H2ロケットの第二段をベースとした捕獲宇宙機を考え、何トンの資源を捕獲できるかを検討した。1回に約100トンを捕獲できる結果となった。この逆行積分による検討は、以下の資料にまとめた。
歌島, "円制限3体問題の逆行積分によるマスドライバ解析とL4点での捕獲時の燃料解析," HE-93025,1993年4月.

by utashima | 2005-03-19 17:38 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback | Comments(0)

高高度略円極軌道への潮汐力の影響  2004年~2005年

 (1)地球周りの高度が数十万kmの極軌道(黄道面に対する)と、(2)月周りの高度が数千kmの極軌道の摂動解析をする機会があった。(1)は天文衛星の軌道としての可能性を探るものであり、(2)は月面極域に衛星からエネルギーを伝送するミッション(月極域に存在する可能性のある氷を探査)の検討に関するものである。

 高度が大きいと、潮汐力が支配的となる。(1)では太陽潮汐力が支配的であり、(2)では地球潮汐力が支配的となる。解析的検討から、極軌道の軌道面に対しては、潮汐力の影響は微小で無視し得る事が予測され、数値積分でも確認された。離心率もあまり変化しないだろうと考えていたが、数値積分してみると、年単位では大きく変化する事が判った。

 そこで、潮汐力による離心率変化の数値積分結果を、解析的に説明しようと試みた。解析的にも、離心率が指数関数的に増大する事を示す事ができた。離心率ベクトルが以下の図のように長期的に変化する事を導いた。
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この変化は、次式で表される。
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以下の資料にまとめた。(1)の軌道に対する太陽潮汐力の影響を調べたものです。
歌島, "高高度略円極軌道への太陽潮汐力の影響(B改訂)," GSB-04007B, 2004年7月.

 次の図は(2)の軌道を検討したもの。黒線が数値シミュレーションによる離心率変化。青線は解析解によるもの。良く一致している。
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 以下の資料に、(2)の軌道の検討をまとめた。
歌島, "STK/Astrogatorによる月SPS軌道の検討," GSB-04060, 2005年2月.

by utashima | 2005-03-19 00:32 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback | Comments(0)

液体アポジエンジンによる最適制御の研究  1984年~86年

 ETS-Ⅵが日本で初めて液体アポジエンジンを採用するとの情報があり、従来のインパルス近似による計画では問題なため、検討を開始した。先日(2005年2月26日)打ち上げられた「ひまわり6号」も液体アポジエンジンを使っているが、3回に分けて噴射している。1984年当時は、1回の噴射で静止軌道に近いドリフト軌道に投入する事を想定して検討した。

 私は、この検討で初めて、最大原理/変分法を勉強し、最大原理だけでは解き辛いため、非線型計画法も合わせて勉強した。ESAの論文も参考にして、以下の解法を提案した。
歌島, "最大原理プラス非線形計画法による低推力AMFの最適化," TK-M95307, 1984年.

 この方法を使って、GTOから静止軌道へ1回の制御で変換する最適制御問題を、推力415Nの場合と2000Nの場合に対して解いた。推力 415N の場合の最適な推力方向の赤緯変化を以下のグラフに描いた。提案した最大原理プラス非線形計画法による解の他に、Differential Dynamic Programming による解と10分割の非線型計画法による解も描いた。
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提案した方法では、推力のオンオフ時刻をスイッチ関数から決めるのでなく、非線形計画法の可変パラメータとして扱っている。このようにして得た解からスイッチ関数の変化を計算し、オフ時刻でゼロになっているか(オン時刻でゼロとなる条件で計算)で最適性のチェックをした。すると、推力が小さいほど最適性は良好である事が判った。これらを以下の資料にまとめた。
歌島, "液体アポジ・エンジンの最適制御(最大原理による数値計算)," TK-M15303, 1986年.
なお、現在、液体アポジ・エンジンの制御計画がどのように作成されているかは、担当部署を離れて久しいので把握していない。
by utashima | 2005-03-15 21:51 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback | Comments(0)

3月は2段として対局

 2月の末から1週間程度、風邪で体調を崩し、囲碁どころではなかった。2月の勝率は4割に僅かに及ばなかった。後1勝していれば4割を越えられたが、風邪で対局できなかった。そのため、3月は2段に降格とした。

 3月の第2週に3月最初の対局をした。順調に勝ちに向って進んでいたが、終盤でダメ詰りに気付かず、10目程度の石を取られた。「投了」のボタンを押した。すると、相手から、「参りました、有難う。」との返事。ポカがなければ私の勝ちゲームであったが、ポカであっても負けは負け。勝った相手から、上記のようなメッセージを貰ったのは初めて。良い人だと思った。私としては、集中が不十分で敗れたが、良い内容の対局だったので安心した。その後、2連勝した。
by utashima | 2005-03-12 19:03 | 囲碁 | Trackback | Comments(0)

静止軌道半径の変動解析 1978年

 静止衛星の軌道保持運用には、現時点のドリフトレートの把握が重要である。ドリフト・レートとは、静止衛星の直下点経度の変化率である。このドリフト・レートを高精度に知るには、平均軌道長半径を知る必要がある。軌道決定で得られるのは、ある時点での接触軌道長半径であり、これを平均軌道長半径に変換する必要がある。

 静止衛星の当時の先進企業であるヒューズ社でさえ、高精度の変換法を持っていなかった。ヒューズ社は1ヶ月間の軌道生成を行なって数値的に平均要素を求めていた。そこで、私達(広田正夫氏と私)は、世界で初めて解析的に平均軌道要素に変換する式を作成した。最も重要な平均軌道長半径の誤差は数m 以下だったと思う。

 平均軌道長半径が得られたので、それを使ってドリフト・レートを算出する式(太陽・月の重力や地球扁平の影響を受ける)を導出した。この式が得られると、逆に、ドリフト・レート=0 の平均軌道長半径(静止軌道半径)を求める事ができ、年間を通してどのように変動しているかに興味を持った。振幅が約70m の半月周期の変動、振幅が約65m の1ヶ月周期の変動、振幅が約50m の半年周期の変動があった。下の図は1977年の各月の1ヶ月間の静止半径を描いたもの。赤い線は解析的に導いたもの。
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1年の内だけでなく、年が変わると静止軌道半径も変化する。振幅46m で 18.6年周期の変動もあった。以下の資料にまとめた。
歌島, "静止軌道長半径の変動について," 1978年.

by utashima | 2005-03-11 20:59 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback | Comments(0)