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宇宙太陽発電システム(SSPS)の軌道間輸送の検討(2) 2003年

 SSPS軌道間輸送の検討では、放射線によるセル劣化の影響とスペースデブリとの衝突の影響を考慮する必要がある。セル劣化の方は、解析ソフトに組み込んでいるので定量的な検討ができる。デブリ衝突の検討をどのように進めるか悩んだ。最適化ソフトに容易に組み込めるデブリ環境モデルは無かった。

 そこで、SSPS組立軌道や静止軌道において、どの程度のデブリ衝突頻度が有り得るかを、最新のデブリ情報に基づいて調べる事とした。例によって、インターネットで調べていると、NASA Johnson Space Centerが開発したORDEM2000、ESAが開発したMASTER-2001という最新データを反映した無料の解析ツールを見つける事ができた。 MASTER-2001には衛星姿勢も考慮したデブリ衝突を解析する機能もあったので、こちらを主に用いた。デブリ問題に対するESAの取り組みの真剣さが伝わって来る。

 検討の結果、従来言われていた高度400~500kmの軌道でSSPSを組み立てるという案は、低軌道のデブリ環境の保全の観点からは、大きな問題であるとの結論に至った。半年程度を掛けてSSPSを組み立てている間に、何度もデブリ衝突が発生するという事態が想定されたのである。以下の資料にまとめた。この検討結果を受けて、SSPSの組み立ては静止軌道にて行なうべきとの方向性が生まれている。
歌島, “SSPS組立軌道のデブリ解析,” 宇宙航空研究開発機構研究開発資料 JAXA-RM-03-005, 2004年3月.


 では、運用軌道と想定されている静止軌道では、デブリ衝突は問題ないのであろうか。ORDEM2000では低軌道しか解析できないが、MASTER-2001では静止軌道も解析できるので検討した。結果は、10cm級デブリのニアミスは年間1回、1cm級デブリの衝突は年間15回、1mm級デブリの衝突は年間10万回となった。

 10cm級デブリは人工デブリが殆どであり、衝突速度は1.5km/sを超えるものは少ない。1cm級デブリは約8割をmeteoroidが占め、衝突速度は5km/s~30km/sと非常に高速である。1mm級デブリは99%がmeteoroidであった。このように、静止軌道ではmeteoroidが主役を演じる事が判った。これらの事を以下の資料にまとめた。
歌島, “静止軌道におけるSSPSのデブリ解析,” システム解析・ソフトウェア研究開発センター資料 GLA-03029, 2003年9月.


 静止軌道のデブリ環境からは、本当にSSPSのように大きなものを静止軌道で長期にわたって運用して大丈夫なのか、という心配が大きくなった。SDIのような話であるが、レーザーを利用すれば、衝突して来るmeteoroidの軌道をそらせる事が可能な様である。使用するエネルギーの観点から検討したものが、以下の資料である。
歌島, "レーザによるSSPS のデブリ防御システム," GLA-03030, 2003年10月.

 SSPSを静止軌道で組み立て、運用中はレーザーでSSPSを守るとして、静止軌道への効率的な輸送をどのように実現するか。SSPS部材を展開せずに輸送すればデブリ衝突は極めて少ないと考えられる。効率的な輸送には、現状ではイオン・エンジンのような電気推進系が必要と考えられる。この推進系に電力を供給する太陽電池は放射線帯を長期間通過し劣化する。現在のシリコンセルでは、静止軌道への1往復の前にセルが死んでしまう恐れが大きい。JAXAのMDS-1で高い耐放射線性が実証されたCIGSセルは、静止軌道への1往復に十分耐えられる可能性がある。但し、MDS-1の飛行期間(GTOに1年余り)ではまだ不十分であり、実際に往復させてみる実証機の打上げが必要と考えられる。

 以下の論文に、SSPS軌道間輸送へのセル劣化とデブリ衝突の問題をまとめている。
M.Utashima, "In-Orbit Transportation of SSPS Considering Debris Impacts and Cell Degradation by Radiation," ISTS 2004-f-01, 2004.

 このSSPS軌道間輸送の検討をする事で予想外の成果も得た。SSPSを打ち上げる基地は赤道直下に作られると考えられ、その場合は軌道面変更は不要となる。円軌道(LEO)から円軌道(GEO)への軌道変換であるが、蝕に入るために推力を発生できない期間が存在し、離心率が大きくなってしまう。その離心率をゼロにするために、従来は推力方向のピッチ角制御が想定されていた。そのピッチ角の振幅は数十度にもなるため、課題の1つであった。しかし、推力のオン・オフを利用するだけで、ピッチ角固定により、殆ど燃料損失なく離心率をゼロに制御できる事がわかった。その事を以下の論文に発表した。
歌島, "SSPS軌道間輸送の新しい制御法," 宇宙技術, Vol. 2 (2003)

by utashima | 2003-06-01 00:00 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback | Comments(0)