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宇宙太陽発電システム(SSPS)の軌道間輸送の検討(1) 2002年

 2002年から宇宙太陽発電システム(SSPS)の宇宙機部分の輸送問題の検討を始めた。微小推力の電気推進系を使ってスパイラル状の軌道に沿って、低軌道から静止軌道まで、宇宙機を輸送する問題である。この問題は、宇宙開発事業団(現在のJAXA)に入社した直後から関心を持っていたテーマであり、20数年を経てやっとタッチできる事に感慨深いものがあった。

 先ず、文献調査から開始した。図書室でAIAAの雑誌を調べていると、以下のものがすぐに見つかった。1周の軌道変化をガウス積分で平均化し、非線型計画法で推力計画を最適化するもの。正にぴったりの文献だった。
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C.A.Kluever and S.R.Oleson, “Direct Approach for Computing Near-Optimal Low-Thrust Earth-Orbit Transfers,” Journal of Spacecraft and Rockets, Vol.35, No.4 (1998), 509-515.
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この文献に沿って解析ソフトを自作した。文献と異なる所は、non-singular 要素の定義を私が今まで使ってきたものにした事、ガウス積分の次数を25次まで使えるようにした事位である。文献では5次位のガウス積分で済ませていた。25次までのガウス積分の係数等の載っている文献が見つからず苦労した。Compaq Visual Fortran に付属の数学ライブラリ IMSL に DGQRUL というソフトがあり、任意の次数のガウス積分の評価点座標と重み係数を出力する事ができたので、これを使用した。

低軌道から静止軌道への低推力軌道変換では放射線帯をゆっくり通過するため、太陽電池セルの劣化が大きい。その劣化モデルとしてKluever達の文献では以下の文献のモデルを使用していた。1960年代のシリコンセルに対する劣化データに基づくモデルである。
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L.L.Sackett, H.L.Malchow, and T.N.Edelbaum, “Solar Electric Geocentric Transfer with Attitude Constraints: Analysis,” NASA Lewis Research Center Contract NAS 3-18886, NASA CR-134927, 1975.
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これに替わる新しいモデルが無かったので、私もSackettらの文献のモデルをそのまま使用した。このようにして、解析ソフトを作り、SSPSの軌道間輸送の検討の準備ができた。約1年掛かった。このソフトの結果を、日本の静止衛星(シリコンセルを使用)の10年間の劣化データと比較してみると、良く合っている事に驚いた。ここまでの事は、以下の報告書に記している。
歌島, "電気推進系による静止軌道への軌道変換の最適化," 宇宙開発事業団技術報告 NASDA-TMR-020027, 2003年.

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by utashima | 2003-01-01 00:00 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback | Comments(0)


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