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オール電化推進系の静止衛星のGTOからGEOへの軌道変換(その2)

1.電気推進系による低高度からGEOへの最適軌道変換のアルゴリズム
 私が SSPS (宇宙太陽発電システム) の検討の時から使っているアルゴリズムは、1998年に発表された以下の文献に掲載されているものである。これは、厳密な最適解を求める方法ではなく、非線形計画法という離散的なパラメータの最適化法を適用して近似的な解を得る方法である。その文献には、厳密な変分法で得た解と比較して、十分良い解が得られる事が述べられている。
C.A.Kluever and S.R.Oleson, “Direct Approach for Computing Near-Optimal Low-Thrust Earth-Orbit Transfers,” Journal of Spacecraft and Rockets, Vol.35, No.4 (1998), 509-515.

 後に記す事を理解して頂くために必要なので、そのアルゴリズムを簡単に紹介する。
 この軌道変換には数ヶ月の期間が掛かり、それを最適化するには、その期間の軌道計算を数百回~数千回も行なう必要がある。現在の PC が速くなったとは言え、運動方程式を単純に数値積分する方法は、時間が掛かり過ぎて実用的ではない。計算時間の短縮を考えねばならない。電気推進系の推力は小さいため、軌道1周の噴射による軌道変化は小さい。そこで、1周の平均軌道変化率をガウス積分 (次数20を使用) によって求め、それを 日単位の積分刻みで数値積分する事で、長期間の電気推進系の噴射による軌道変化を高速に計算する。
オール電化推進系の静止衛星のGTOからGEOへの軌道変換(その2)_c0011875_19402787.jpg
 軌道変換の最適化は、電気推進系の推力方向を最適にステアリングする事によって実現される。最短時間で GEO に到達したいので、推力は常に可能な最大推力を使用する。GEO への移行では、軌道面(傾斜角)を変えるために推力方向のヨー角(面外角)を周期的に制御し、軌道長半径と離心率を変えるためにピッチ角(面内角)を周期的に制御する。図1 を参照。軌道上の任意の位置において、長半径を変えるのに最適な推力方向 ua と、離心率を変えるのに最適な推力方向 ue を求め、次式のように、重み係数 Ga, Ge を用いて面内の最適な推力方向 uIN を表現する。重み係数 Ga, Ge は、時間の関数である。α がピッチ角である。
オール電化推進系の静止衛星のGTOからGEOへの軌道変換(その2)_c0011875_19434593.jpg

最適なヨー角 β は、重み係数 Gi を用いて次式で表わす。nodal line でヨー角は最大値・最小値を取る。Gi も時間の関数である。
オール電化推進系の静止衛星のGTOからGEOへの軌道変換(その2)_c0011875_1944910.jpg

軌道変換に要する期間とそれを NB 分割した各分点における重み係数を最適化パラメータとした非線型計画問題として定式化し、逐次2次計画法 (SQP法: Sequential Quadratic Programming法) で解く。ここでは、軌道変換に要する期間(移行期間)を最小にする解を求める定式化を使用する。なお、移行期間中に衛星が地球の影に入る場合は、電気推進系を止める仕様にしている。摂動としては、地球重力場の偏平性 (J2項) による永年項のみを考慮した。
 上記のアルゴリズムを使って、OPT4B という解析ソフトを作成した。重み係数 Ga,Ge は、相対的な値が必要なだけであるため、上記文献と同様に Ga を 1.0 に固定した。LEO や GTO からの移行においては、長半径は大きくするのみであり、問題ない。

 本検討では、遠地点高度を通常の GTO よりもかなり大きくした、いわゆる Super Synchronous Orbit も初期軌道の対象としている。遠地点高度を大きくし過ぎると、OPT4B では収束しなくなる。その事を、次回に述べる。

(その3) に続く・・・
by utashima | 2006-11-26 10:41 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback | Comments(0)


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