「だいち」軌道を例にSTKソフトの問題点の一つを紹介

 最近、STK(Satellite Tool Kit) に地球観測衛星「だいち」の軌道を設定して地上軌跡などをシミュレーションする事があった。その時、STK のバグに近い問題点を再発見したので、ここに紹介する。他の人たちが、同じ現象に出くわして間違った結果を使う事が無いようにと思って。上に「再発見」と書いたのは、同じ現象を 2年位前にブリザドさんが体験されていたからである。その時の STK のバージョンは、5 だったと思う。そのすぐ後に、ブリザドさんは AGI 社の日本代理店に報告された。しかし、代理店からは何の返事もなかった模様。現在、職場では ver.6 と ver.7 を使える状態にある。私は ver.6 を使っている。上記の再発見は ver.6 で行なった。ver.6 でも改善されていなかった。自宅では、無料版の ver.7 をインストールしている。自宅でも試してみたが、同じく改善されていない。

 以下、現象の詳細を説明する。STK で衛星軌道を設定する時、普通 Orbit Wizard という機能を使う。「だいち」の軌道は、太陽同期準回帰軌道なので、その Wizard の中の 「Repeating, Sun Sync」 というメニューを選択する。下の図がその時の画面である。以下、自宅で行なった無料版の ver.7での画面である。
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 すると、以下の軌道設定パラメータを入力する画面が現れる。回帰周回数 X (元の軌跡に戻るまでの周回数)を右上の枠に入力する。ここでは、「だいち」の軌道の 671 を設定している。671 については、後でより詳細に述べる。問題なのは、左側の枠内の設定である。近似高度か 1日当たりの近似周回数のどちらかを設定するようになっている。
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 私は、初めは、近似高度を指定した。「だいち」の高度は 691km 余りなので、700km を入力した。すると、STK は高度 794km の軌道を出力した。100km も異なる軌道である。近似高度に 691km を入力しても同じ軌道になる。そこで、その下の近似周回数を指定する方を選択してみた。「だいち」の 1日の周回数は、正確には、15-19/46 であり、小数で近似すると、約14.587 である。そこで、15 を入力してみた。今度は高度 485km の軌道になってしまった。14 を入れると高度 794km の軌道になる。14.5 を入力すると、やっと正しい「だいち」の軌道になった。14.4 でも OK である。しかし、14.6 を入れると、高度 589km の低い軌道になってしまう。ここまでの試行から、誤差が 0.5 を超えない程度で、尚且つ真値を超えない周回数を入力しなければならないと推測できる。なお、1日の周回数が整数に近い場合は、このような問題は発生しない。この情報を知っていれば、Orbit Wizard を使えるが、結果の軌道については、常にチェックする必要がある。そのチェックには、このブログのこの記事の図が利用できる。但し、この図は太陽同期の場合であるので、太陽非同期には適用できない事に注意。

 回帰周回数と、近似高度又は近似周回数を入力する STK の方法より、以下に述べる N, M, L を直接入力する方が良いと思う。20年以上前に自作したソフトでは、N, M, L を入力するようにしている。

 ここで、準回帰軌道のパラメータについて、説明する。
 衛星軌道面に相対的な地球自転周期(太陽同期軌道の場合は正確に 1日、太陽非同期軌道の場合は約 1日)の間の衛星の周回数が次のように有理数で表わされる時、この軌道を準回帰軌道という。
       N+L/M
              N: 日周回数   M: 回帰日数   L: 日移動数
なお、|L|≦M/2 としている。X=NM+L を回帰周回数と呼ぶ。

 地球観測衛星の初期の頃は、|L|=1 の軌道だけであったが、その後、1 以外の |L| を持つ軌道が多くなった。M/|L| を概回帰日数(サブサイクルとも言う)と呼び、この日数毎に元の軌跡の近くに戻る性質がある。この性質を簡単な例で下図に示す。1日の周回数が N-2/5 の場合を考える。このように L が負の数の時、1日後には西側に |L| 個だけずれた軌跡を通過する。
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 この性質を使うと、観測幅の狭い高分解能センサーと観測幅の広い中分解能センサー(又はポインティング機能)の 2つのセンサーが要求する異なる軌跡間隔を実現できる。つまり、2π/X が高分解能センサーの要求する軌跡間隔になるように X を決め、2π|L|/X が中分解能センサー又はポインティング機能が要求する軌跡間隔になるように L を決めれば良い。「だいち」もこの性質を利用した軌道設定になっており、上に書いたように、15-19/46 と設定されている。回帰日数は 46日と長いが、概回帰日数は 46/19=2.42 と 2 に近い数であり、搭載センサーの一つの AVNIR-2 のポインティング機能(±44度)を使えば、2日毎に任意地点の観測が可能となる。

 以下に、「だいち」の軌道からオフナディア角44度の範囲で観測できる領域を 2周回に亘って表示した図を示す。翌日はこの間の領域を観測できるため、どの地点も 2日毎に観測できる事になる。図中の青いたくさんの軌跡が、赤道を X=NM+L=15×46-19=671 本通過している。
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by utashima | 2006-04-01 01:36 | パソコン | Trackback | Comments(4)
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Commented by ブリザド at 2006-04-01 20:22 x
これって、例のバグですよね。
こんな基本的な機能でのバグ、何とかして欲しいです...(T^T)
Commented by utashima at 2006-04-01 20:34
このバグだけでなく、月周回軌道の計算時の座標系の不具合も、まだ代理店から回答を貰っていません。STKに頼らず、JAXAで独自にソフトを作れば良いと思うのですが、お金が・・・
Commented by suzukiCEO at 2006-04-06 04:14
はじめまして。キーワード:FORTRANで探していたら、ここにたどり着きました。つくばの多くの研究所様から仕事をもらっております、ソフトハウスの者です。
画像を見まして、夢のあるお仕事に憧れを感じました。
幼いころ、天体望遠鏡を買ってもらって星空を見ていた時のことを思い出してしまいました。
Commented by utashima at 2006-04-06 08:28
コメントを戴き、有難う御座います。私も中学生の頃、天体望遠鏡を買って貰い、木星の4大衛星を見たりしていました。でも、天体写真集の画像との違いを思い知り、暫くして見なくなりました。FORTRANは30年以上使っています。Excelで分岐などが必要なプログラムになりそうになると、Excelを止めてFOTRANで作る事が多いです。


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