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『日本の地震災害』 (伊藤和明著、岩波新書、2005年10月発行)

 最近、地震が多い。つくば市でも、震度4前後の地震の発生数は、例年に比べて多いのではなかろうか。近所の書店で標記の本を見かけたのですぐに購入して読んだ。

 読んで見て、驚いた事が幾つかあるので、それらを簡単に紹介する。

(1)敗戦前後の数年間に、大きな地震が毎年のように発生していた。
 以下に記すように、1000人を越える犠牲者の大地震が毎年のように発生している。この内の3件は戦争中であり、地震の発生そのものの報道が規制されていた。東南海地震の時、長野県諏訪市でも震度6に相当する大きな被害が発生していた。しかし、諏訪の市民は東南海地震のことは知らされず、戦後の長い間「諏訪地震」と呼んでいた。市民がこれを東南海地震によるものと知ったのは40年後の1984年であった。日本国民には知らされなかった東南海地震は、米国の新聞では報道されていた。
 ・1943年9月10日  鳥取地震   死者1083人
 ・1944年12月7日  東南海地震 死者・不明者1223人
 ・1945年1月13日  三河地震   死者2306人
 ・1946年12月21日 南海地震   死者1330人
 ・1948年6月28日  福井地震   死者3769人

(2)関東大震災では、相模湾沿岸などで多数の津波による犠牲者が発生している。
 1923年9月1日に発生した関東大震災では、東京と横浜での大きな被害のみが良く知られているが、伊豆半島東岸から相模湾沿岸一帯、房総半島の南端を津波も襲っている。相模湾沿岸だけで、津波による犠牲者が数百人と推定されている。

(3)関東大震災では、丹沢山地や箱根山地などで多数の土砂災害が発生している。
 神奈川県西部の山地を中心に、山崩れや崖崩れが多数発生した。丹沢山地では、緑の森林に覆われていた山地の約20%で崩落が発生し、白い地肌が剥き出しになった。

(4)福井地震(1948年)から兵庫県南部地震(1995年)までの47年間は、大きな震災のない比較的平穏な時代であった。
 福井地震で3769人、兵庫県南部地震で6433人の犠牲者が出ているが、その間の47年間には地震動だけで100人を越える死者を出した地震は発生していない。敗戦前後の5つの大地震で犠牲者が多いのは、戦争中又は敗戦直後という極めて悪い環境が影響しているのかも知れない。

(5)断層の活動による地震は、1000年程度の間隔で発生する。
 断層の活動による地震は、1000年程度の間隔で発生するようだ。兵庫県南部地震を起こした活断層は1300~1400年間動いた形跡がなかった。大阪や京都の周辺にも1000年以上活動していない断層が分布しているらしい。


[補足]活断層の活動周期
 活断層の活動周期は1000年程度に限られるものではないと思われたので、調べてみた。防災科研のホームページに以下の記述があった。
 「M7の地震による断層変位量はD=1.5m程度なので,平均変位速度 S が千年あたり50cmのB級活断層であれば,地震発生間隔 R は3,000年となります.」
 この事から、活動周期が1000年位の断層は、千年当たり1.5mの平均変位速度のA級活断層という事になる。


 最近のNHKテレビで見たように記憶しているが、東海地震、東南海地震、南海地震の3つは、過去にもほぼ同時に発生していた事が確認されている。敗戦前後の頃のように、連続して大地震が発生する事も想定した対策が検討されているようだ。戦時中と比べて社会環境は良いが、都市化が高度に進んでいるため、地震に対する脆弱性が大きくなっている事の影響が心配される。
by utashima | 2005-11-06 16:45 | 読書 | Trackback(1) | Comments(0)
Tracked from 僕のつぶやき。 ネットの.. at 2006-01-09 16:43
タイトル : 日本の地震災害 伊藤 和明著 岩波新書を読んだ
日本の地震災害岩波書店このアイテムの詳細を見る この本は日本の地震災害について関東大震災から最近の新潟県中越地震までをタイプ別に検討している。  津波災害と土砂災害や都市を壊滅させた直下地震など 来るであろう大地震に備えて必読の本である。 又地震と戦争や無理な都市開発など時代背景も明らかにしている 著者はNHK解説委員、文教大学教授を経て、現在、防災情報機構会長。他に『直下地震!』(岩波書店)『大地震・あなたは大丈夫か』(日本放送出版協会)などがある。 ... more


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