フォボス・ペネトレータの軌道運動解析  1996年

 本ブログの『小型宇宙機によるフォボス探査計画 1996年』に、「トランスポンダも搭載したペネトレータをフォボスに数個打ち込む。・・・」と書いた。このフォボス探査計画を作成した後、フォボスへのペネトレータの打ち込みを解析した。このペネトレータの目的は2つあり、フォボス内部の探査とトランスポンダの設置である。フォボス周りの擬周回軌道は、極域の観測を狙って相対傾斜角を大きくするが、すると不安定領域に接近するため、高い航法精度が必要となる。フォボスに打ち込まれたトランスポンダと宇宙機との間で電波による軌道計測を行ない、航法精度を高めようと考えた。

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 本解析では、フォボス重力を無視した線型相対運動モデル(宇宙機のランデブのターミナル・フェーズ等でしばしば使用されるHill の方程式)を使用した。フォボス擬周回軌道を飛行する探査機からペネトレータを分離し、直後にインパルス的な速度増分を与えて、フォボス中心に向かわせる。与える速度増分、フォボスまでの飛行時間、衝突時の速度などを検討すると共に、初期増速度の誤差の影響なども検討した。図3.1 にフォボス固定座標系を示す。本解析では、ξ-η 面内の探査機軌道から同面内にペネトレータを発射する。

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  図3.2 に、ペネトレータを分離する前の探査機の擬周回軌道を示す。探査機から分離してΔV を付加した後、フォボス表面に垂直に衝突する解を得たい訳であるが、ここではフォボス中心に達する解で近似する。

 フォボス中心に達した時の速度の条件を考える。月ペネトレータを打ち込む宇宙研のルナーAミッションでは、月衝突時の最大速度として約300m/s を想定していた。フォボスへのペネトレータも同程度の速度でぶつかる必要があると考えて、フォボス衝突時の速度の大きさを300m/s と規定した。

 始めに、フォボス中心に達する時刻(飛行時間) tc を横軸に取り、ペネトレータ分離時の M0 をパラメータとして、フォボス衝突時の速度の大きさ Vc のグラフを描く。 M0 (図3.2 のM の事) に対する対称性から、0度~90度の範囲を検討するのみで良い。図3.3 に結果を示した。この図から、300m/sでフォボス中心に達するための飛行時間 tc は、約165秒(M0 =0度)~約342秒 (M0 =90度)の範囲である事が分かる。
 次に、飛行時間 tc を横軸に取り、ペネトレータ分離時の M0 をパラメータとして、ペネトレータ分離直後の速度増分 ΔV のグラフを図3.4 に描いた。

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 図3.3 と 3.4 を比較すると、初期増速量(≒ペネトレータの初速。フォボス固定座標系における探査機本体の速度は小さいため。)ほぼそのままの速度でフォボスに衝突する事が判る。以上の検討で、飛行時間 tc がフォボス軌道の周期 7.66 時間に比べて十分小さい事が分かった。
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 図3.5 に M0= 90度、 tc =342秒の場合のペネトレータの軌跡を示す。僅かにカーブしている。分離直後の増速からフォボス中心到着までの間の速度は、ほぼ一定と見なせる。

ペネトレータ飛行の誤差解析
 ペネトレータ分離直後の増速誤差によるフォボス中心到達時の位置・速度の誤差を評価した。フォボス中心到達時の位置・速度の誤差 δX(tc) の共分散行列をCx、分離直後の増速誤差の共分散行列をCΔVとすると、次式でCxを評価できる。
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 ペネトレータの飛行経路は直線に近いので、共分散行列の計算は簡単になり、フォボス中心到達時の位置誤差の標準偏差 σrc、速度誤差の標準偏差 σvc が以下の様に近似できる。
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 M0=90度からのペネトレータ発射が tc 最大であり、フォボス中心到達時の位置誤差 σrc も最も大きくなる。よって、M0=90度で誤差を評価した。フォボス中心での速度=300 m/s の場合、 初期増速量の大きさの誤差 1σ 値をノミナル量の2%、推力方向誤差の 1σ 値を1.1度とすると、σ=σ=300 m/s×0.02 = 6 m/s であり、
  σrc = 2902 m、 σvc= 8.5 m/s
となる。フォボスの平均半径は約11km であり、これらの誤差はペネトレータ実現に向けては、大きな障害ではないと考えられる。

 これらの解析は、以下の資料にまとめた。
歌島, "フォボス・ペネトレータの軌道運動解析," GAS-96026, 1996年7月.
by utashima | 2005-07-30 13:37 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback | Comments(0)
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