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小型宇宙機によるフォボス探査計画  1996年

 1996年時点で米国では、先進的な小型宇宙機による New Millennium 計画が検討されていた。検討開始の正確な年度は判らない。1996年当時に New Millennium 計画のミッションとして、以下の3つの Deep Space シリーズと、3つの Earth Orbiting シリーズが検討されていた。

・DS - 1
小型宇宙機によるフォボス探査計画  1996年_c0011875_19295694.gif  1998年に打ち上げられ、大成功を収めた小惑星/彗星フライバイ探査機。イオン・エンジンを主推進系として採用した初めての宇宙機。遠くの小惑星を光学観測して自分の位置を知る自律光学航法を実証した。右図が DS-1 である。90mN のイオン・エンジンを噴射している。

・DS - 2
  Mars Polar Lander 探査機にピギーバックされて火星に接近し、母機から分離されて火星の地中に突き刺さる2機のペネトレータ。Mars Polar Lander は1999年12月に火星に軟着陸するために大気中を降下して行ったが、その後通信ができなくなった。DS - 2 も、母機から分離された後、通信できず失敗した。

・DS - 3
  約1km 離れた2つの宇宙機(光学望遠鏡)で捕らえた天体の画像を3番目の宇宙機に送って干渉させ、口径1km の光学望遠鏡に匹敵する分解能を得るミッション。2005年現在の New Millennium 計画には、これは見当たらなかった。TPF-I という光干渉計ミッションの計画に統合されたのかも知れない。

--------------- ここから本題 ----------------

 NASA のこの計画を知り、NASDA の技術研究本部でも同様な検討を開始した。そして、現在の技術だけでは実現が難しいと思われるような新しいミッションの提案が募集され、私はここに紹介する 『小型宇宙機によるフォボス探査計画』 を提案した。そして、1996年夏に カリフォルニア州 San Diego で開かれた AIAA/AAS Astrodynamics Specialist Conference に参加したついでにジェット推進研究所に寄り、New Millennium 計画の担当者達からお話を伺うと共に、上記の 『小型宇宙機によるフォボス探査計画』 を紹介した。

 『小型宇宙機によるフォボス探査計画』 は、3機の小型宇宙機によるフォボスからのサンプル・リターン計画である。米国の NEAR 探査機による小惑星 Eros 探査の結果や、宇宙科学研究所(JAXA/ISAS)が実施する小惑星からのサンプル・リターン計画(現在飛行中の 『はやぶさ』 )の成果と比較する事で、フォボスの成り立ちを明らかにするのが主目的であった。この計画は、私的なフォボス探査研究会(輿石氏、松島氏、斎藤氏等)の構想がベースになっている。

 本計画は以下の3つのフェーズから成り、約2年間隔で3機の小型宇宙機を打ち上げる。
小型宇宙機によるフォボス探査計画  1996年_c0011875_1415180.jpg
  (1)周回観測フェーズ
  (2)接地観測フェーズ
  (3)サンプルリターン・フェーズ

 周回観測フェーズは右図の擬周回軌道からフォボスを観測する。フォボスとの距離は50km~100km 程度。この軌道は相対傾斜角を大きくすると不安定になり得るので、高精度軌道決定の用途も考えて、トランスポンダも搭載したペネトレータをフォボスに数個打ち込む。このフェーズの観測を基に次のフェーズの観測地点を絞る。

小型宇宙機によるフォボス探査計画  1996年_c0011875_14402089.jpg 接地観測フェーズでは、興味ある地点に接近して観測し、サンプルを取得する。これを数ヶ所で繰り返した後、フォボスを離れ、次の回収宇宙機が来るまで、火星周回軌道上で待機する。接地観測に要するコストを右のグラフに示した。

 更に2年後にサンプル回収機を打ち上げ、火星周回軌道で待機している宇宙機とドッキングしてサンプルを受け取り、地球に帰還する。サンプルを受け取った後、地球へのウインドウを待つために約450日間、火星周回に留まるとした。しかし、金星swingbyを利用できれば、火星での待機期間を大幅に短縮できる。

 各フェーズの火星遷移軌道上での宇宙機質量を、以下の値に見積もった。
  周回観測フェーズの宇宙機     :約400kg
  接地観測フェーズの宇宙機     :約450kg
  サンプルリターン・フェーズの宇宙機:約950kg

周回観測フェーズの宇宙機のイメージ図を以下に掲げる。
小型宇宙機によるフォボス探査計画  1996年_c0011875_14571084.jpg

 このフォボス探査計画は、以下の資料にまとめている。
歌島, "フォボス探査計画," GAS-96025, 1996年7月.
by utashima | 2005-07-10 16:15 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback | Comments(0)


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