1992年から、私的な「フォボス探査研究会」に参加させて頂き、主にフォボス探査活動の軌道設計/ 解析を担当した。この研究会やフォボスについては、
このブログの別の記事に記しているので、参照して下さい。1992、1993年は主に高度50km位から分解能1m程度でフォボス全球観測のできる軌道(擬周回軌道)の設計を行ない、1994年頃は、更にフォボス表面に接近した探査活動について検討した。ここでは、その中のホバリングと定高度移動について紹介する。
ホバリング
右図のフォボス固定座標系で、フォボス近傍の宇宙機の運動方程式を表わすと以下の様になる。これは、人工衛星のランデブ解析で使われる Hill の方程式である。なお、フォボスも自転と公転の周期が一致しており、火星には同じ面を向けている。左辺の
b は、フォボスからの重力加速度と宇宙機が発生する推力加速度の和である。
ホバリング中は、位置と速度の変化はないので、フォボスからの重力加速度と宇宙機が発生する推力加速度の和は次式で表わされる。
この
b から、フォボスからの重力加速度を引くと、ホバリングに必要な推力加速度が得られる。このようにして求めた7.66時間(フォボスの公転周期)当たりのホバリングΔV を右のグラフに示す。n はフォボスの火星周りの平均運動である。
n の付いた項は、フォボスが火星の周りを公転しているために存在している。小惑星の近傍でのホバリングでは、この n をゼロとすれば良い。
ホバリング対象天体が、フォボスと同じ形の小惑星であれば、ξ 軸上の表面では82.3m/s に更に56m/s が加わって約138m/s が必要になり、ζ 軸上の表面では301m/s から13m/s を引いた288m/s が必要となる。
フォボスが火星の周りを回っている影響はちょっと大きい。
定高度移動
定高度移動というのは、ほぼ一定の高度を維持しながら、一定速度でフォボスの周りを回る移動法である。常に推力加速度を発生させて移動する。ここでは簡単のために、高度一定でなく、半径一定とし、大円に沿っての移動とした。定高度移動の半径と i, Ω (図2.1参照)を指定すると、宇宙機の位置ベクトル(ξ、η、ζ)は時間の関数として決まる。 最初に掲げた Hill の方程式に、これらを代入すると、フォボス固定座標系にて必要な推力加速度が得られる。これを図2.1の機体座標系(u1, u2, u3)に変換すれば良い。右に、移動速度を変えた時の1周の低高度移動に必要な増速量のグラフを示す。i=0 の経路に沿った移動の場合である。
移動速度が約5m/s の時に増速量が最小となる。遠心力の影響である。
右に、移動大円の傾斜角を変えた時に、最適な移動速度がどのように変わるかを示す。最適な移動速度は、傾斜角に対して単調増加である。
赤道に沿っての移動では、観測時間を長く取れる点からは i=0 の順方向の移動が良い。なお、i=0 と i=180 度の移動はどちらも同じ増速量である。
以上の事を含めて、以下の論文を発表した。
歌島, "フォボス近傍探査活動のtrajectoryについて," ISAS アストロダイナミクス・シンポジウム, 1994年.