TRMM (Tropical Rainfall Measuring Mission, 熱帯降雨観測ミッション) は、日米共同プロジェクトであり、米国の主な分担は衛星の開発と運用、日本の主な分担は主観測装置である降雨レーダー(世界初)の開発と H2 ロケットによる打上げであった。
1991年頃、降雨レーダーを開発していた NASDA のグループから、TRMM の運用中における高度変化の解析を依頼された。降雨レーダーは active センサーであるため、送信パルスが地表に届いてから衛星に帰って来るまでの時間がどの程度変化するかは、重要な事項である。
大気抵抗による離心率ベクトルの変動解析を済ませていたので、その成果を使って、TRMM の高度変動の検討を行なった。
TRMM は平均高度が 350km±1.25km の範囲に留まるように高度保持制御が行なわれねばならない。高度保持制御の際は、離心率ベクトルも凍結離心率ベクトルに一致するように軌道制御が行なわれるとした。そこで、高度保持制御直前の軌道と、直後の軌道に対して、1周の高度変化を解析した。1周の高度変化の計算には、以下の近似式を用いた。この式は、地球の扁平率の1次まで、地球重力ポテンシャルの J2 項の1次まで、離心率の1次まで、の近似を用いたもので、離心率が小さい軌道であれば、任意の傾斜角 i の軌道に対して使用できるものである。高度の誤差は数十mである。
a
e は地球の赤道半径 (6378.136km)、J2 =1.082628e-3 である。この近似式の導出は、以下の資料に記した。
歌島, "略円軌道の高度の近似式," HE-90032, 1990年9月.
高度保持制御直後の軌道は、軌道長半径=6378.136km+350km
+1.25kmであり、離心率ベクトルは凍結状態の (e=0.000542, ω=90度)である。e=0.000542は、地球重力ポテンシャルの 8×8 まで考慮して GSFC が算出した値である。
高度保持制御直前の軌道は、軌道長半径=6378.136km+350km
-1.25kmであり、離心率ベクトルは、右図に示した4通りの値を使用した。図中の円の半径 1.6e-4 は前述の「大気抵抗による離心率ベクトルの変動解析」で求めたもの。
以下に、計5ケースの TRMM 軌道1周の高度変化を示す。横軸は、緯度引数 (radian) であり、左端が昇交点通過時である。北半球の飛行高度は低く、南半球は高い事が判る。
この解析は、以下の資料にまとめた。
歌島, "TRMM の高度変動の解析," HE-91069, 1991年8月.