人気ブログランキング | 話題のタグを見る

2トン級静止衛星の軌道保持精度の限界(南北方向保持)  1984年

2トン級静止衛星の軌道保持精度の限界(南北方向保持)  1984年_c0011875_12105136.jpg 1984年頃、H2ロケットで2トン級の静止衛星を打ち上げる計画が進行していた。記事『2トン級静止衛星の軌道保持精度の限界(東西方向保持) 1984年』では、東西方向保持について記した。ここでは、1984年に同時に検討した南北方向保持について記す。南北方向保持には、イオン・エンジンを使用すると仮定した。
 南北方向保持を考える際には、静止軌道の軌道面が摂動によりどのように変化するかを把握しておく必要がある。図6は、以下の文献から引用した静止軌道の傾斜角ベクトルの変化図である。
広田正夫, "一般摂動法による静止軌道の軌道面及び離心率長周期解," NASDA TR-16, 1984年.
この図の横軸はp=i cosΩを、縦軸はq=i sinΩを表わし、それぞれ-0.3度~0.3度、-0.5度~0.5度の範囲を表示している。この図の原点が傾斜角0度の面を表わしている。
 この図は、右下の端点(1981年5月1日)から左上の端点(1982年4月30日)までの1年間の傾斜角ベクトルの変化を示している。両端点を結ぶ破線は年平均要素の変化を表わし、長い波長の変化は月平均要素の変化を、更に短い波長の変化は日平均要素の変化を表わしている。
 日平均要素が持つ半月周期項の振幅は約0.004度、月平均要素が持つ半年周期項の振幅は約0.023度である。年平均要素の変化方向は、白道面(月の軌道面)の黄道面に対する昇交点経度 N の周期(約18.6年)で変わり、図の縦軸からの最大離角は約9度である。また、年平均要素の変化の速さは、
  0.87+0.10 cos N (deg / 年)
で近似できる。


(1)公称保持範囲が約0.03度以上の場合
2トン級静止衛星の軌道保持精度の限界(南北方向保持)  1984年_c0011875_15394961.jpg この場合は、半年周期項と半月周期項を取り除く必要がないので、年平均要素の変化だけをイオン・エンジンでキャンセルすれば良い。このキャンセルが正確になされれば、傾斜角ベクトルは図7に示したように変化する。しかし、一般には推力誤差があり、図7の円運動に上下方向の動きが加わる。イオン・エンジンの推力に10%の変動を考えると、この円は約0.00024度/日の速さで上又は下に移動する。すると、公称保持範囲を iL (deg)とすると、次のT1(日)毎にイオン・エンジンの噴射時間を見直す事になる。
2トン級静止衛星の軌道保持精度の限界(南北方向保持)  1984年_c0011875_15522298.jpg

δid は傾斜角の軌道決定誤差であり、0.002度とした。これを以下の図8に示した。

(2)公称保持範囲が約0.01度~0.03度の場合
 この場合は、半年周期項も取り除く必要があり、制御位置と制御量を約1ヶ月毎に修正しなければならない。月平均の傾斜角ベクトルの最大変化率は約0.0032deg/日であり、イオン・エンジンの推力誤差を10%考慮すると、噴射時間の見直し周期T2(日)は次式となる。但し、半年周期項に追従するため、約30日が上限である。
2トン級静止衛星の軌道保持精度の限界(南北方向保持)  1984年_c0011875_1675381.jpg
これも、図8に描いた。2トン級静止衛星の軌道保持精度の限界(南北方向保持)  1984年_c0011875_1694818.jpg
 南北方向保持の範囲も、東西方向保持の限界である±0.02度までと考えると、制御計画の見直し周期は約1ヶ月以上となる。
 最後に、南北保持制御時刻が蝕にかかる事は通常はない事を記しておく。蝕の時の太陽の赤経は約0度又は180度であるのに対し、南北保持制御時の衛星位置の赤経は約90度又は270度だからである。電源の心配をする事なく、イオン・エンジンの噴射が出来る。

 以上のことを、以下の資料にまとめた。
歌島, "2トン級静止衛星の軌道保持の精度上の限界の検討," TK-M95108, 1984年.
by utashima | 2005-05-30 00:00 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback | Comments(0)


<< 3ヶ月ぶりに3段に昇段 『複雑な世界、単純な法則』 マ... >>