特集「東北地方太平洋沖地震の科学」が掲載されている
『科学』2011年10月号(岩波書店発行)を読んだ。特に興味を惹かれたのが、田中佐千子氏による『月や太陽の引力が地震の引き金に』と、日置幸介氏による『超高層大気は巨大地震の発生を知っていたか?』という記事である。
『月や太陽の引力が地震の引き金に』
東日本大震災(2011年4月1日の持ち回り閣議で3月11日の地震による震災の名称を「東日本大震災」とすることを了解、これ以降メディアなどにおいても「東日本大震災」の名称に統一された)後も度々大きな余震が発生し、約1ヶ月の周期で余震が活発になっている印象を持っていた。田中氏の記事によると、東日本大地震の震央をほぼ中心とする200km×200kmの領域の1970年代から現在までの地震の発生時刻と地球潮汐の相関が、2000年頃から高くなっている。著者は、「巨大地震の発生が近づくと、地球内部に歪が十分に溜まった状態になり、地球潮汐の僅かな力が引き金となって地震が発生すると考えられる。」と記している。
『超高層大気は巨大地震の発生を知っていたか?』
東日本大地震の直前にGPSによって見出された超高層大気(電離圏)の異常について紹介されている。GPS衛星から送信されたマイクロ波は、電離圏通過時に電子による僅かな遅延を受ける。この遅延量を測れば、衛星と受信機を結ぶ視線上にある電子の総数(TEC, Total Electron Content)が分かる。
公開されている国土地理院GPS連続観測網のデータを使い、東日本大地震の前後のTEC変化を調べている。それによると、大地震発生の60~40分前にTECの正の異常が始まり、地震の約10分後に消えている。地震の約10分後には、地震時電離圏変動と呼ばれるTECのノイズのような変動が発生して暫く続く。これは、地震による地面や海面の上下運動によって生じた音波が電離圏に達して電子の粗密を作ったもの。
他のM9クラスの地震でもこの現象が見つかっている。しかし、M8クラスでは、地震前のTEC異常は確認できないと言う。著者は、このTEC異常は、M9クラスの巨大地震でようやく見える前兆ではないかと考えている。