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歪な形状の小天体のごく近傍での重力加速度計算  1994年

 惑星の小衛星(フォボスやダイモス等)や小惑星などの小天体は、一般に非常に歪な形状をしている。1994年頃、これらの小天体の表面近くで、宇宙機をホバリングさせたり、低空飛行させたりする宇宙探査活動の検討をした。その際には、小天体のごく近傍の重力場を知る必要がある。
 球対称でない天体の重力場を表わすには、通常、球関数展開が使用される。火星の衛星フォボスや幾つかの小惑星に対し、重力場の球関数展開係数が求められている。これらの小天体の場合に気を付けなければならないのは、形状が非常に歪であるため、小天体のごく近傍の対象とする部分が、球関数展開の収束領域に含まれない事があることである。当時、この事を広田正夫氏に指摘して頂いた。

歪な形状の小天体のごく近傍での重力加速度計算  1994年_c0011875_1625826.jpg 収束領域に含まれない点での重力の計算を球関数展開法で行なうと、展開次数を上げるほど精度が悪くなる等の結果となり得て、必要な精度が出ない事がある。小天体を簡単なモデルに近似して、この事を調べてみた。図1は、2つの球がくっ付いてできた小天体のモデルである。この天体による重力場の厳密な計算は簡単であり、その球関数展開の結果と比較する事により、収束領域の外の点における誤差の様子が良く判る。
 次の式は、2つの球の中心を結ぶ線上(x軸)での重力加速度の式である。上の式が球関数に展開したもの、下の式が厳密なものである。
歪な形状の小天体のごく近傍での重力加速度計算  1994年_c0011875_1632375.jpg

球関数展開の次数を変えて描いた重力加速度を、真値と比較して以下に示す。次数を上げるほど真値に近づいている。x軸上の点は収束領域内にあるからである。
歪な形状の小天体のごく近傍での重力加速度計算  1994年_c0011875_1639854.jpg

 以下の式は、z軸上での重力加速度の式であり、上が球関数展開式、下が真値である。
歪な形状の小天体のごく近傍での重力加速度計算  1994年_c0011875_16432796.jpg

上の球関数展開式は、下の厳密な式をテーラー展開したものになっており、その展開の収束領域は、a/r<2 である。球関数展開の次数を変えて描いた重力加速度を、真値と比較して以下に示す。収束領域の限界に近づくと、次数を上げるほど誤差が大きくなる様子が判る。
歪な形状の小天体のごく近傍での重力加速度計算  1994年_c0011875_16522776.jpg

 誤差が大きくなる領域での重力計算が必要な場合、天体を多面体で近似して重力を求める等の力技が使われる事もあるようだ。以下の文献を参照。
Werner, R.A., "The Gravitational Potential of a Homogeneous Polyhedron," Celestial Mech. Dynam. Astron. 59, 1994.

 本記事の検討については、以下の資料にまとめた。
歌島, "歪な形状の小天体のごく近傍における重力加速度計算について," HE-94026, 1994年4月.

by utashima | 2005-05-07 15:51 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback | Comments(0)


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