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ソーラーセールの実現可能性の調査  2000年

 2005年5月に世界初のソーラーセール宇宙機 Cosmos 1 が地球周回軌道に打ち上げられる予定である。 PLANETARY SOCIETY と COSMOS STUDIOS のミッションである。軌道上で展開されると 8 ピースのピザのような形になり、スピンで安定する。バレンツ海のロシアの潜水艦から高度 800km の軌道に打ち上げられる。セールを展開した後、太陽光圧を利用して軌道高度を次第に大きくし、ソーラーセールの機能を実証する計画。セールの面積は約600m2。セールは厚さ 5ミクロンのaluminized reinforced Mylar でできており、Cosmos 1 全体の質量は約100kg。面密度は約170g/m2 である。

 ソーラーセールを目指した大型薄膜の宇宙空間での展開においては、ISAS/JAXA が世界で初めて成功している。2004年8月9日の小型の S-310 ロケットによる実験である。

 私は、2000年頃、ソーラーセールの実現性がどの程度なのか、簡単な調査を行なった。具体的には、欧米ではどのようなミッションが考えられているのか、それらを実現するには、面密度をどの程度にして、どの程度の sail 面積を実現する必要があるのか等を、インターネットで調査した。そして、確認のために、幾つかのミッションに対して、数値計算を行なった。

 2000年頃に考えられていた欧米のミッションを幾つか以下に記す。
(1)Solar Polar Sail Mission (太陽極軌道)
 ・ジェット推進研究所の計画。
 ・軌道半径が 0.48AU で傾斜角90度の太陽周回軌道に約380kg のソーラーセール宇宙機を投入する。
 ・面密度が 6~7g/m2 で 200m 四方のセールを作れれば実現できる。
(2)North and South Pole Sitters (南北極上空観測衛星)
 ・NASA の 「Living with a Star プログラム」の中の1つのミッション。
 ・2つの宇宙機を、地球の南北極のはるか上空に静止させ、太陽風などを観測する。
 ・面密度は、10g/m2 以下が必要である。
(3)Early Warning System for a Plasma Storm using a Solar Sail
 ・IAF '96 でフランスの CNES の研究者達が発表した計画 (IAA-96-IAA.3.3.06)。
 ・太陽-地球系の L1 点は、地球から太陽の方向に 150万km 離れた点であるが、300万 km離れた点に静止させる計画。太陽からの CME 等の予報時間を2倍にできる。
 ・面密度は、15g/m2 が必要である。

 上記のミッションを見ると、最低でも 15g/m2 の面密度を達成しなければならない。最初に書いた Cosmos 1 の値 (170g/m2) と比べると、1/10 以下にしなければならない事がわかる。

 以下の資料を作成した。
歌島, "Solar Sailを利用した軌道設計とその実現性の調査," GAA-00012, 2000年10月.

 ここに、上記の資料の中の North and South Pole Sitters (南北極上空観測衛星) の検討結果を紹介する。図4.3-1 に、検討に使用したソーラーセール宇宙機と太陽・地球の位置関係、宇宙機の姿勢パラメータ θ 等を示す。
ソーラーセールの実現可能性の調査  2000年_c0011875_133543.jpg

 Solar Sail 部分とそれ以外とが同じ質量と近似した場合のソーラーセール宇宙機の相対静止可能位置を図4.3-2 と図4.3-3 に示す。両図は太陽帆の面密度 msail/S を変えた複数の曲線を含む。各曲線とも、横軸上で θ=0 であり、θ が大きくなると曲線上を上に進む。図4.3-2 が示すように、θ が10 数度から30 数度で静止位置は黄道面から最も離れる。θ が 90 度に向って大きくなると、静止位置は地球に接近する。図4.3-3 は地球付近の静止位置を詳細に示した。θ=90 度となると太陽帆が存在しないのと等価になり、釣り合い位置は L1 点となるため、図4.3-3 に示すように、各曲線は L1 点に集まる。10g/m2 以下にできると、極の上空に接近させることができる。
ソーラーセールの実現可能性の調査  2000年_c0011875_13184326.jpg
ソーラーセールの実現可能性の調査  2000年_c0011875_13191748.jpg

by utashima | 2005-04-13 19:46 | 宇宙機の軌道設計/ 解析 | Trackback(1) | Comments(0)
Tracked from ブリザドの部屋(日記の小.. at 2005-05-27 21:02
タイトル : ロシア原潜から衛星打上げ^^;
今度の6月21日、米国の惑星協会がロシアに依頼して、ソーラーセール衛星「コスモス1」を打上げます(5月25日予定が再延期)。 この打上げ計画、 計画主体が「民間団体」である米国惑星協会。 太陽光圧を利用して加速する「ソーラーセール衛星」。 という部分だけでも充分に話題性がありますが、それに輪を掛けて、 ロシアの原子力潜水艦に搭載されたSLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)を使って打上げ。 というのがスゴイ。...いや、不要となったSLBMの流用ではなく、現役の潜水艦からの水中発射です。なんでも、ロ...... more


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