2005年1月12日、NASAはDeep Impact宇宙機を打ち上げた。これは、約370kgの質量を母機から分離して彗星Tempel 1に衝突させて、母機と地上から、この衝突の瞬間及び衝突後の彗星や破片を観測するミッションである。衝突は2005年7月初めの予定。
我々は1997年の秋から冬に、人工クレータによる月・火星の地下探査を検討した。 月周回観測機Seleneの後継ミッションを、我々の部屋を中心に構成した4つ程のチームで独立に検討して報告する事になった。検討期間は数週間。1つのグループは4,5人で構成された。我々のチームでは、次期ミッションで月内部の観測をしたいという事になった。ローバに取り付けたドリルで月面を掘るが、それだけでは面白くない。クレータの中央丘は衝突の時に月内部の物質が盛り上がってできたと考えられるので、そこを探査するのが良いのではないか、という事になった。私は、その中央丘に数十kgの鉄の塊を月遷移軌道から直接衝突させ、中央丘を掘り返す事を提案した。そこにローバを向わせて更にドリルで掘って、中央丘の地下を探査する。我がチームはこの方針で検討を進める事になった。 この時の全チームの検討結果は、製本されてNASDA外にも配布された。 この検討のすぐ後、同様の事を火星に対して行なえばどうなるかをちょっと検討してみた。33kgの鉄塊を火星への遷移軌道から火星に垂直に衝突させるとした。直径1.5~5.2mのクレータができそうとの結果となった。できるクレータの直径は、衝突質量の約1/3乗に比例するため、衝突質量を10倍の330kgにしても、できるクレータ直径は約2倍になるに過ぎない。効率は良くない。火星には大気もあり、最大加熱率はMars Pathfinderのそれの10倍にもなる。耐熱シールドを装備しても、燃え尽きてしまうかも知れない。以下にこの解析をまとめた。 歌島, "火星人工クレータの生成," GAA-98001, 1998年1月.
by utashima
| 2005-04-07 21:00
| 宇宙機の軌道設計/ 解析
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Comments(6)
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sima8921 at 2005-04-09 18:19
こんにちは九十九です。
素人ですけど適当に思った事を(笑) 月を掘り返すだけなら、ディープインパクトのような事じゃ無理なんですか? 鉄塊じゃなくて酸素が無くても大爆発起こすような代物を打ち込んでやれば結構深く掘れると思うんですけど。 鉄塊の中に爆発物入れるとか…(笑)
0
こんにちは。私も惑星探査の理学的な面は詳しくないのですが、爆薬を使うと、その生成物がたくさん発生し、元々月の地下にあったものとの識別が難しくなる事があるのかなと思っています。
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sima8921 at 2005-04-09 20:49
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LH2
at 2006-06-18 09:23
x
人工クレーターによる地下探査は大変興味深いです。今になってDeep Impactや LCROSSなどインパクターによる探査もメジャーになりましたが、日本でもこのような検討が行われていたんですね。
一つ質問があるのですが、 「クレーターの直径は衝突質量の約1/3乗に比例するため、衝突質量を10倍の330kgにしても、できるクレータ直径は約2倍になるに過ぎない」 と言うことですが、質量によって火星大気圏での減速の度合いが違うのではないかと思うのです。 火星大気圏突入時の速度に対して、33kgと330kgではどの程度衝突速度に差が出るのでしょうか。 もし地表到達時にあまりに減速していれば、クレーターは形成されず、地表にめり込むだけになると思うのですが・・・。 (この解析を読みたいのですが、google scholarで検索しても出てきません。載っている雑誌か論文集を教えていただけないでしょうか。)
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utashima at 2006-06-18 10:22
インパクタの直径を2倍にすると、質量は8倍になるが断面積は4倍。すると、抗力加速度は1/2になります。この時の衝突速度は計算していませんが、2倍にはならないと予想しています。クレーターの直径は、衝突速度の約2/3乗に比例しますので、衝突速度が2倍になっても、クレーターサイズは1.6倍です。質量が8倍になる事も考慮して、約3倍が上限でしょうか。
衝突質量が33kgの場合でも、衝突速度は4~5km/sありましたので、「あまりに減速していれば、・・・」はないと思います。 最後に記した資料は、どこにも発表していません。あまりメリットがないという結果だったので。ご希望でしたら、「自己紹介」カテゴリに書いておいたメール・アドレスに、「氏名、所属、理由」を記したメールを送って頂けないでしょうか。社内の了解が得られましたら、お送りしたいと思います。
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utashima at 2006-06-18 11:01
上記の補足です。打上げ時期によって火星大気上層に達した時の速度は5km/s~7km/s程度の範囲で変わります。7km/sで大気に垂直に突入した場合、衝突質量33kgのケースでは、衝突速度は約5m/sになります。インパクタの直径を2倍にすると、抗力加速度は1/2になり、衝突速度は約6km/sでしょう。
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